2009.4.20 画期的なアイデアか? 【螺鈿迷宮 上】
■ヒトコト感想
現代の医療問題に鋭くメスを入れる問題作?なんて感じなのだろうか。作者が医療関係に従事しているだけあって、そのあたりの描写はとても細かく、臨場感にあふれている。終末医療の問題や国のサポート体制など、現場ならではの問題というのを提議している。末期患者を病院内で従業員として雇う。その発想は非常に新しく、うまくいきそうな気がする。病人たちの生きがいにもなるのかもしれない。しかし、作中でも言及しているように安定した雇用というのは得がたいのだろう。終末医療を扱う病院内で、人が次々と死んでいく。病院のそれも末期患者ばかりを集めているので、それは当然のことのように思えるが、そこに盲点がある。死期を知らせる怪しげなバラの花や、調査に行って帰ってこない調査員など、ミステリーとして興味を惹かれる材料は多数そろっている。まだ上巻ということで、本格的な謎解きは下巻からということなのだろう。
■ストーリー
医療界を震撼させたバチスタ・スキャンダルから1年半。東城大学の劣等医学生・天馬大吉はある日、幼なじみの記者・別宮葉子から奇妙な依頼を受けた。「碧翠院桜宮病院に潜入してほしい」。この病院は、終末医療の先端施設として注目を集めていた。だが、経営者一族には黒い噂が絶えなかったのだ。やがて、看護ボランティアとして潜入した天馬の前で、患者が次々と不自然な死を遂げた!彼らは本当に病死か、それとも…。
■感想
病院。それも終末医療を扱う病院では、死はつきものだ。そんな病院で不可解な死が連続し、怪しげな雰囲気が漂い始める。ミステリーとしての定石はしっかりと抑えられており、怪しい人々は多数登場する。冒頭からキャラ立ちした者たちが、様々な動きをし、そこでもうこの作品の虜になってしまった。病院のボランティアのふりをして、潜入捜査をする。そこではドジばかりする駄目看護師の姫宮や怪しげな皮膚科医の白鳥などが登場する。一癖も二癖もあり、一筋なわではいかない雰囲気を漂わせている。そんな不思議な雰囲気にも主人公と同様、次第に慣れてくる。患者が働く病院というのも、最初は違和感をもったが、良く考えるとものすごく合理的なのかもしれない。自給自足というのだろうか、自分たちのことは自分たちで世話をする。この仕組みが完成されれば、完璧なシステムとなることだろう。
さすが作者自身が現場で働く医者なだけに、現場の問題点を鋭く突いているように思える。病院は終末医療をやりたがらない。死を待つだけの患者のケアをどうするのか。国自体も、それに対してほとんど力を入れていない。そこで登場したアイデアが、末期患者たちを病院勤務として雇うということだ。最初このアイデアを読んだとき、衝撃をうけた。まさに目からうろこだ。患者たちは生きがいを求め、病院側は労働力を求める。これこそまさに需要と供給にマッチしている。完璧なシステムと思えた。しかし、それは患者たちが末期患者ということを除外して考えなければならない。末期患者ゆえに、その労働力は安定しない。安定しない労働力を企業は安心して使うことができない。なんだか、本作はこのシステムの不足部分を補うために、ミステリーという題材をとおして、何か大きなヒントを与えているような気がした。
死期を知らせるなぞのバラ。まったく仕事ができない東城大学から派遣されてきた皮膚科医。昨日まで元気だった患者の突然の死。怪しさ満点のものばかりだ。ミステリーとしての材料はそろっている。あとはこれをどのように料理し、社会問題を含ませながらも、あっと言わせるようなトリックを見せてくれるのか。上巻でも十分怪しく奇妙な雰囲気は漂っているが、下巻では、より病院の独特な密閉感というのがでてきそうだ。入り込みやすい題材を使い、医療現場の問題を一般人にもわかりやすく説明する。作者の力量のすばらしさが本作を読むことによってしっかりと理解できる。
下巻でどのような結末となるのか、期待感は強まるばかりだ。
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