黄金の島 上 真保祐一


2010.9.18  日本とベトナムの格差 【黄金の島 上】

                     
■ヒトコト感想
暴力団から追われる身となり、ベトナムへと逃げ込んだ修司。そこで出合ったシクロ乗りの若者と修司の関係を描きつつ、ベトナムの特殊な社会構造を暴露している。ベトナムが賄賂社会だということに特別な驚きはない。共産党員が牛耳る社会というのは、そうなりやすいのだろう。生まれた時にほぼその後の生活が決まってしまう世界。何も持たない家に生まれた者は、這い上がることすら難しい。コウアンと呼ばれる警察までもが賄賂を要求し、弱い者から金を搾り取ろうとする。日本から逃げ込んだ修司でさえも、油断すると賄賂の網にかかってしまう。平等とは程遠い世界の中で、目的を忘れた男と、貧乏から這い上がろうとするベトナムの若者の強烈な生き様が描かれている。

■ストーリー

いますぐ逃げろ! 自由と豊かさを求めて「命の洗濯をしてこい。わかるな、修司」。所属する暴力団の権力抗争から幹部の恨みを買った坂口修司。バンコクへと身を潜めたが、待っていたのは謎の刺客だった。度重なる襲撃をかわし、逃げたベトナムでシクロ乗りの若者と出会う。はたして修司に安住の地などあるのか。

■感想
本作はヤクザ世界から逃げ出した修司と、ベトナムで這い上がろうとする若者、二つの世界が描かれている。二人がベトナムで出会い、交流が生まれるとそこから物語は一気に加速していく。日本へ行きたいと願う若者と、どうにかして日本に居場所を見つけようとする男。修司が日本から逃げ込んだ先にも安住の地はない。ベトナムという国では、日本から逃げ出したヤクザは目立ち、何かと目をつけられ、さらには現地の怪しいコーディネータにたかられることになる。日本社会と比べると、ドロドロとした賄賂の世界に嫌気がさしてくるほどだ。

ベトナムで貧しさに苦しむ人々。物価水準の違いと、どれだけ働こうとも裕福にはなれないカラクリなど、相変わらず作者の取材力の高さが発揮されている場面がある。シクロに乗せることで観光客からチップをねだり、コツコツと資金をためる。それは気の遠くなるようなことだが、貧乏生活から這い上がるという執念がそうさせているのだろう。タイトルは、日本を比喩した言葉のようだ。ベトナム人にとって、日本はまさに黄金の島なのだろう。何も情報を持たず、ただ噂だけでまっすぐに進もうとする若者に、なんだか悲しみを覚えてしまった。

日本内部のヤクザ同士の駆け引き、そしてベトナムではコウアン、怪しげなコンサルタント、そして修司の命を狙うもの。様々な思惑が錯綜し、物語はどうなっていくかまったく予想がつかない。おそらく日本に渡るであろうベトナムの若者がどのようにして成り上がっていくのか。もしくは、修司は最後までベトナムの地で逃げ回るのだろうか。本作の終盤では、修司を追いかけていた砂田の雲行きがあやしくなり、まったく油断できない展開となっている。作中で修司が言うように、ベトナムが世界の国々の中で最下層だとは思わないが、日本と比べるとその境遇のすさまじさには同情せざるお得ない。

ベトナムの熱帯の暑さが伝わってくる作品だ。

 下巻へ



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp