Op.ローズダスト 中 福井晴敏


2009.6.15  目的が曖昧なテロ事件 【Op.ローズダスト 中】

                     
■ヒトコト感想
ローズダストが結成されたいきさつや、丹原と入江が別れた原因となる事件など、上巻で気になっていた部分がほぼすべて明らかにされている。ローズダストの目的やテロの首謀者など、今までの一連の流れを裏付けるような説明がなされている。本作の謎といえる部分は明らかとなったが、まだ事件は決着していない。ローズダストのメンバーは生き残っており、丹原も自分のことを含めて決着をつけなければならない。本作では、ローズダストとの激しい戦いと、犠牲になっていく人々が描かれている。悲しい物語とも言えるが、いつの時代も一部の上層部の思惑によって、末端の人間たちは右往左往し、被害をこうむることになる。丹原と並河がどのような行動をとるのか、今後決着へ向け、多くの犠牲が必要な流れとなっているが、納得いく終わり方になるのか、とても気になるところだ。

■ストーリー

並河警部補は、捜査を進めるうちに丹原三曹とテロの実行犯、「ローズダスト」のリーダー入江一功との間にある深い因縁を知る。並河とのふれあいに戸惑いながらも、過去の贖罪のために入江との戦いに没入してゆく丹原。だが日本に変革を促そうとする真の敵は、二人の想像を絶するところで動き出していた。今、日本が戦場と化す。

■感想
本作の一番のポイントは、上巻ではその存在意義や目的がまったく不明だったローズダストの全容が明らかとなったことだ。なぜ丹原は入江たちと別れることになったのか。ローズダストを襲った事件とは。根本的な目的は曖昧だ。誰が何のためにという明確な目的はなく、それぞれ利権や保身、そして日本の将来を憂いての行動だろう。誰がいったい真の黒幕なのかまったくわからない。裏で操っているであろう謎の一団であっても、それすら利用されているのかもしれない。複雑な組織が交差した結果、責任は曖昧となり、その結果、目的も右往左往していく。

本作ではローズダストとの激しい戦いがメインなのだろう。ローズダストのメンバーが一人づつ消えていくのは必然として、今後丹原がどうなっていくのか、そして並河がどのような選択をするのか。ローズダストの先行きは決して明るいものではない。それをわかっているかのように、物語は陰鬱な方向へと動いていく。登場人物たちの決して幸せとはいえない境遇と、上からの命令を忠実にこなすことだけを至上命題とする人々。ひとたび歪みが発生すれば、日本全土を揺るがすほどの大事件に発展しかねない。現実離れした危ない橋を渡っているような気がした。

作者の主義主張が色濃く反映されているのだろうか。日米安保に対する不信感。自国を守るために何をする必要があるのか。石油自給率を高めるなど、荒唐無稽な話のように思えるが、本作の中ではそれが真っ当なこととして感じられるから不思議だ。現実の事件や出来事とリンクさせた本作。911テロの影響でローズダストが生まれ、北朝鮮との関係に大きな影響を受けている。ここまで現実とリンクさせられると、現実の日本でも、裏では大きな陰謀が渦巻いているのではないかと思わせられる。それほど、リアルな雰囲気をかもし出している。

下巻でどのような結末がまっているのか。決して幸せな結末ではないような気がした。

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