ねじの回転 上 恩田陸


2010.7.20  歴史のIFを楽しめる 【ねじの回転 上】

                     
■ヒトコト感想
時間逆行装置である「シンデレラの靴」。人類を悲惨な運命から救うために二・二六事件に介入する。なぜ二・二六事件なのかという疑問と、どこをどう変えるのかということがよくわからないが、二・二六事件をあまり知らなくても十分に楽しめる。知っていればより楽しめるのだが、歴史を少しでも変えてしまうと「不一致」となり、歴史が変わった直前まで戻る。事件のメインの人物に、繰り返される歴史の説明をし、理解させる。失敗するとわかっている歴史を繰り返すというのはどういう気持ちなのだろうか。どういった原理で時間を逆行できるのかなど、一切説明がなく、二・二六事件のターニングポイントがズレないよう、歴史上の人物が動き回る。ある意味歴史のIFを考えさせられる作品だろう。

■ストーリー

過去を変えることはできるのか。人類を悲惨な運命から救うため、時間遡行装置による歴史の介入点に選ばれた1936年2月26日、東京。歴史を修正すべき安藤大尉には別の思惑が…。

■感想
もしあの時こうやっていれば…。そんな過去の後悔をやり直すことができる便利な機械。それが時間逆行装置だ。ただむやみに時間を逆行したひずみはどこかに現れる。人類の悲惨な運命を変えるためにある地点で歴史をもう一度なぞろうとする。時間逆行とそれによって生じた暗黒の未来。それを防ぐためになぜ二・二六事件なのか。歴史的知識があれば、臨場感たっぷりに歴史のIFを感じることができるだろう。知識がなくとも、「不一致」の原因や、主要人物の動きなどなんとなく想像することができる。頭の中ではまるでSF映画のように映像が浮かび上がってくる。

時間逆行装置がその原理や、制限などほとんど説明されることなく進んでいる。そのため、「機械」という言葉も相まって、非常にハイテクなマシンのはずが、やけにアナログな印象ばかりが残ってしまう。ケーブルをネズミにかじられることを恐れたりと、未来の世界でもそんなアナログなことを恐れるのかと少し違和感をもった。作者が理系的知識に乏しいからそうなったのか、意図的なのか。逆にそのアナログさが、人間が発明したモノというイメージからかけ離れた印象を植え付ける。下巻では、時間逆行装置の秘密も明らかになるのかもしれない。

時間逆行を邪魔するハッカーたち。謎のハッカーの姿もおぼろげなら、目的も曖昧だ。二・二六事件がどうなれば良いのか。「不一致」の定義が曖昧なまま進む物語では、登場人物たちと同じように、読者も不安にさらされてしまう。その後の歴史で重要な役割を担うはずの人物の死や、歴史的事実の改変。その結果日本にはどういった未来が待っているのか。パラレルワールドを無視した流れの中で、最後にはどうやって整合性を保ち、ゴールをしっかりと示してくれるのか。時間逆行装置という都合の良い機械の真の目的は何なのか。下巻で解決すべき謎はどんどん膨らんでくる。

二・二六事件に詳しい人は、読めば歴史のIFを楽しめることだろう。

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