ねじの回転 下 恩田陸


2010.7.27  複雑な時間交差について行けず 【ねじの回転 下】

                     
■ヒトコト感想
上巻では過去を変えるという行為と、それを行う上でのリスク。そして、その結果未来がどうなったかが描かれている。二・二六事件をもう一度なぞることにどういった意味があるのか。本作では、二・二六事件に戻った意味と、どのように未来を変えたいかがしっかりと描かれている。ただ、結末間近では時間を逆行している世界の中に、さらに別の時間軸で逆行するという、頭がこんがらがるような世界となっている。そのため、事態がおさまった後も、イマイチしっくりこなかった。合間に挟まれる現代と思わしき描写。その姿が望んだ未来なのか。ハッピーエンドのような終わり方だが、結局どうなったのかというのをはっきりとは認識できなかった。つまり、最後のゴタゴタに頭がついていかなかったということだ。

■ストーリー

過去を変えることはできるのか。人類を悲惨な運命から救うため、時間遡行装置による歴史の介入点に選ばれた1936年2月26日、東京。歴史を修正すべき安藤大尉には別の思惑が…。

■感想
二・二六事件を変える。何のために、どのように変えたいのか?それらは下巻でしっかりと示されている。時間を逆行してまでやりたかったことが、現実では考えられない結末だった。かなり驚きの未来だがサブリミナル的に散りばめられた描写から、未来はとんでもないことになっているのだという予測はできた。二・二六事件でのある目的を達成した結果、行き着く先が皆が目指す未来だったのか。どうにも目的意識がはっきりしなかったが、なし崩し的に最後まで進んでいったような形かもしれない。

時間を逆行した世界の中で、得体の知れないハッカーがいる。安藤たちの命を狙った人物だ。その答えは本作で描かれており、タイムスリップ的物語としては定番のオチだ。ただ、そこに至るまでの必然性は少し強引過ぎるように感じた。二・二六事件のさなかにドサクサに紛れてあることを決行しようとする石原。それを阻止し、その後の明るい未来を目指そうとする国連職員たち。時間逆行装置の制限時間の意味と、すべてが失敗した場合のやり直し方。一か八か、がけっぷち感はよくでている。

それにしてもラストの怒涛の展開はよくわからなかった。時間の逆行につぐ逆行で、今がいったいどの時間軸なのか。そして、誰がどこまで世界を操作できるのか。その結果、どうなったのか。日本人としては決して明るい未来には思えないが、物語としては成功したのだろう。複雑な時間の交差に頭がついていかず、わけがわからなくなった。何かを暗示させるような、時間逆行の魔法が使える王国の話が登場し、それをなぞるような流れとなる。これはハッピーエンドととらえて良いのだろうか。

日本人として読むと、ラストの解釈は決してハッピーエンドではないように感じてしまった。



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