2010.3.1 ストレートな結末 【ナイチンゲールの沈黙 下】
■ヒトコト感想
上巻の終わりには、かすかなミステリーっぽさをかもし出していた。それが下巻となり、どのように面白さを引き出していくのか。思ったよりもあっけない結果となった。複雑なトリックがあるわけでもなく、ミステリアスな展開があるわけでもない。小夜や冴子の非科学的な現象を引き起こす歌の力というのは興味深いが、それが特別事件に影響しているわけではない。相変わらず白鳥と田口の掛け合いは面白く、さらに今回は加納という強烈なキャラクターまで登場する。その結果、三つ巴のような状態となり、犯人探しよりも他の部分に力を入れているように感じられた。今までの作者の作品と比べると、医療問題に対しての突っ込みはなく、ミステリー色を強くしようとしているが、そこまでインパクトはなかった。
■ストーリー
手術前で精神的に不安定な子供たちのメンタルサポートを、不定愁訴外来担当の田口公平が行なうことになった。時同じくして、小児科病棟の問題児・瑞人の父親が殺され、警察庁から出向中の加納達也警視正が病院内で捜査を開始する。緊急入院してきた伝説の歌姫・水落冴子と、厚生労働省の変人役人・白鳥圭輔も加わり、物語は事件解決に向け動き出す。
■感想
上巻では看護師の過酷さに続き、後半では猟奇的事件が発生する。犯人はいったいどんな人物なのか。その種明かしが下巻である本作で行われるはずだった。それはおそらくミステリアスな雰囲気をかもし出しながら、いったい誰が犯人かというミステリーの醍醐味を表現しようとしていたのだが…、実際には驚くほどシンプルで、予想通りの結末となっている。定番であれば、一番怪しい人物は白であり、思わぬ人物が黒というのがセオリーだろう。本作は逆に深読みする人をあざ笑うかのように、あっさりと当初の予想どおりの人物が犯人となる。
事件とはまた別に、小夜と冴子にはちょっとした非科学的能力が発見される。歌で映像を見せるという特殊な力。このことが、事件のトリックに大きく関係しているのかと思いきや、何もなかった。事件自体はシンプルで、当たり前の結末となる。しかし、その過程ではいつものとおり、白鳥と田口のやりとりがあり、今回はさらに加納という白鳥の盟友が登場することになる。その結果、いつも以上に理論的で特殊な言い争いが展開されることになる。このしゃべくり合戦を面白く感じるかどうかで、本作の評価は分かれることだろう。
シリーズとしての位置づけでは、ちょっと中だるみな感じかもしれない。あっと驚くような展開を期待していただけに、少し裏切られたような感じだ。同時期に発生した事件としてジェネラルルージュの凱旋があるが、こちらの方がミステリー色は強くなくとも、キャラクターの魅力で面白さが増幅していた。本作に限っては、特別魅力的なキャラクターが登場するわけでもなく、バチスタの資産をそのまま食い潰しているような印象しかなかった。医療現場の問題に対しても、ほとんど言及することがなかった本作。テーマがはっきりしないというのが一番の問題なのかもしれない。
上巻からだんだんと尻すぼみになったという感じだろうか。
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