ジェネラル・ルージュの凱旋 上 海堂尊


2009.5.27  速水というキャラクターの魅力 【ジェネラル・ルージュの凱旋 上】

                     
■ヒトコト感想
速水がかっこよすぎる。患者のことを第一に考え、上司たちと衝突する姿や、ジェネラルルージュと呼ばれるようになったゆえん。映画版では堺雅人が演じているために、読んでいても常に頭の中には堺雅人の姿が思い浮かんでしまう。相変わらず個々のキャラクターがたっており、速水に負けないほどの個性をはっきしている。特に螺鈿迷宮から引き続き登場した姫宮。なんだか、不思議なキャラクターだが、確実にインパクトのある行動をする。シリーズを読んでいたほうがより楽しめるが、読んでいなくても十分楽しめるように工夫されている。医療業界の問題点をスリリングにわかりやすく描くことで、作者は医療の現場を変えようとしているのか。今のところミステリーっぽさは少ないが、速水の行動が今後どのような波紋を投げかけるのか、下巻が気になって仕方がない。

■ストーリー

大人気“田口・白鳥シリーズ”みたび登場!伝説の歌姫が東城大学医学部付属病院に緊急入院した頃、不定愁訴外来担当の田口公平の元には匿名の告発文書が届いていた。“将軍(ジェネラル)”の異名をとる、救命救急センター部長の速水晃一が特定業者と癒着しているという。高階病院長から依頼を受けた田口は調査に乗り出す。

■感想
血まみれの将軍と影で呼ばれるほどの強烈な印象を残す速水。救命救急センター部長でありながら、その行動は上司たちや他の部署の人間をないがしろにし、自分の信念である患者第一を貫いている。権威主義でなく、速水のように明確な目的を持ったキャラクターは読者に人気がでるだろう。口だけでなく、実力も伴っている。この速水というキャラクターが本作のすべてだろう。救命救急センターという緊急を要する職場で、血まみれになりながら、その能力を思う存分はっきする。速水の悲願であるドクターヘリを導入するために、全ての心血を注ぐ。そのまっすぐな気持ちに心打たれてしまう。

このシリーズでは過去の作品のキャラクターがそのまま登場してくる。そのため、他の作品を読んでおいたほうがより楽しめることだろう。特に姫宮というキャラクターの特殊性を考えると、本作を読む前に螺鈿迷宮は読んでおくべきかもしれない。もちろん、他のシリーズを未読であっても、本作単体で十分楽しめる作品であることはまちがいない。現代の医療問題に鋭くメスを入れる作者。部外者からはわからない、医療関係に従事している現場だけが気付くことをこうやって作品にすることで、世間に啓蒙しているのだろうか。本作を読むと、現場は患者を最優先しているのだが、上層部の一部には病院を維持することだけを考えるようなスタンスに読めてしょうがなかった。事実そうなのだろう。

チームバチスタは不可解な手術中の事故死を扱い、本作は特定業者との癒着を扱う。ただ、この特定業者との癒着をあっさりと速水が理由を含めて認めたため、その後、どのようにミステリーとして展開していくのか少し気になる部分だ。ミステリー的な要素が皆無ではないが、インパクトが弱いような気がした。この後、下巻において、何か新しい問題が発生し、ミステリーとして不可解な出来事が起こり、それを解決するために田口が奔走するのだろうか。ミステリー的な面白さは今のところ上巻では少ない。それでも、速水というキャラクターのおかげで別の面白さが発生している。

どうやってミステリー化するのか、下巻が気になって仕方がない。

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