村上朝日堂はいかにして鍛えられたか 村上春樹


2008.11.17  作者の性格がよく出たエッセイ 【村上朝日堂はいかにして鍛えられたか】

                     
■ヒトコト感想
過去の村上朝日堂と同様にくだらないことが満載だ。シリーズの中には小難しいことばかり書かれているものもあったが、本作はいつもどおり、どうでも良いようなことが、変な絵と共に描かれている。空中浮遊の夢だとか、裸で家事をする主婦だとか、基本的にはどうでもいいようなことばかりが語られている。それを読んでも、「ふーん、そうなんだ」というような感想しかもたない。しかし、どうでもいいことなのだが、妙に惹かれてしまう。間にはさまれる絵を見ると、そのどうでも良い感がさらに倍増されてしまう。エッセイとしてサラリと読むにはこれほど優れているものはないかもしれない。何せ、何も考えなくても良いからまったく疲れるということがない。

■ストーリー

裸で家事をする主婦は正しいのか?あなたの空中浮遊の夢はどのタイプ?読者から多数の反響を呼んだ「通信」シリーズを筆頭に、「真昼の回転鮨にしかけられた恐怖の落とし穴」「宇宙人には知られたくない言葉」から、苦情の手紙の書き方、学校の体罰の問題まで、世紀末の日本を綴ったエッセイを水丸画伯のイラストがサポートする、名コンビ「村上朝日堂」シリーズ最新作。

■感想
シリーズの中にはかなり難解なエッセイと化したものもある。本作は、くだらなさは相変わらずなのだが、それと共に作者の性格というのが非常に良く現れているような気がした。前からうすうすと感じていたことだが、一般的に言うところのとっつきにくい人なのだろう。それだけでなく、強烈に頑固なように思えた。自分がエッセイで語ったことについて、読者から反論があると、それに対してさらに反論めいたことをあとがきに書く。なんだか、意地でも自分の非を認めない頑固親父のように感じてしまった。もちろん、作者の語り口が丁寧なため、そう感じさせないのだが、言ってることはただの頑固親父でしかない。

くだらないエッセイの中に衝撃的事実が紛れ込んでいたりもする。それは作者がかたくなに断った文学全集に作品を掲載するということだ。そのことによって、それに関わった編集者が悩んで自殺したという事実。さらりと語ってはいるが、かなり衝撃的である。はたから見ると、たいしたことがないのになぜそれほど拒絶するのかわからないが、そこは作者なりの考えがあってのことなのだろう。自分の一言で、一人の人間を死にまで追い詰める。とてつもないことなのだが、作者はすんなりと受け入れているようだ。

メインのエッセイとは別に、本作にはあとがき以外にも、抗議の手紙や、その他のエッセイなどが収録されている。そこでも、サラリとした軽いものから、丁寧な文面の中に強烈な嫌味を含んだ抗議の手紙など多種多様なものが含まれている。読んでいると、とっつきにくいのは確かだ。初対面の人にはそれほど悪い印象を与えないが、殻に閉じこもって、なかなか心を開いてくれなさそうな気がした。まぁ、これが売れっ子作家でなければ社会生活を営む上では苦労しただろうと、勝手に想像してしまった。

なんだかんだ言っても、作者の性格がとてもよく出ているエッセイだと思った。



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