模倣犯5 宮部みゆき


2010.3.23  悪魔のような男の最後 【模倣犯5】

                     
■ヒトコト感想
ここまで読んだ読者はすでに真犯人が誰かということをわかっているはずなのに、その人物は犯人ではないと錯覚してしまう。ピースの巧妙な仕掛け。あらゆるパターンを想定し、自分に捜査の手がまわらないよう仕掛けを作る。圧倒的なまでの存在感と、知能の高さ。由美子が衝動的な行動にでる直前に網川が由美子に見せた小道具は相当インパクトがある。本作の中盤であっても、このままピースは逃げ切ってしまうのではないかと思わせるほど、逮捕の手がかりはまったく見えてこない。それが、後半になると、雪崩のごとくピース包囲網が整っていく。ラストのスピード感はすさまじいが、ここまで完璧なピースが最後の最後でとった行動がどうも気に入らない。ある意味ピースらしいが、もっと衝撃的な結末を求めていた。

■ストーリー

真犯人Xは生きている―。網川は、高井は栗橋の共犯者ではなく、むしろ巻き込まれた被害者だと主張して、「栗橋主犯・高井従犯」説に拠る滋子に反論し、一躍マスコミの寵児となった。由美子はそんな網川に精神的に依存し、兄の無実を信じ共闘していたが、その希望が潰えた時、身を投げた―。真犯人は一体誰なのか?

■感想
ピースが自分を守るための様々な仕掛けは完璧に思われたが、よく考えると穴だらけだ。栗橋と高井が事故にあってから、ピースが逃げ続けたのはほんのわずかな時間でしかない。完璧と思われたピースだが、表面をとりつくろっているだけで、根っこの部分では、結局警察には勝てなかったということなのだろう。そうなるとわかっていても、中盤に登場するピースの巧妙な仕掛けには唸らずにはいられない。高井由美子を自殺に追い込んだ最後の仕掛け。まさかそんなことまでやっていたとは想像できなかった。この部分だけ読むと、ピースは悪魔ではないかと思えてしまう。

強烈な存在感を示していたピースにも最後は訪れる。そこで、この最後の悪役がどのような結末を迎えるか、気になる部分だったのだが、思いのほかあっさりとした逮捕劇だった。何か衝撃的な結末を期待していただけに、ラストは少し期待はずれかもしれない。ピースらしい最後というのは、強烈な事件をさらに上回るような、人の印象に残る最後を期待してしまった。もしかしたら、精神が崩壊するなり、命を絶つなりするのかと思ったが、そのまま真っ当に逮捕されている。意外なほどあっけない結末だった。

この長大な物語を勝手に想像すると、もしかしたら犯人視点である3巻の部分はもともと存在しなかったのではないだろうか。そうなると、読者は網川という人物を最後の最後まで幼馴染を気遣う正義の男と考え、その人物が犯人という衝撃を受けることだろう。すでに犯人がピースこと網川であるというのが分かっているだけに、また違った面白さはあるが、衝撃度はうすれている。複雑な心理描写や、人間関係を描くには、このパターンしかないのだろうが、犯人がわかった状態というのはどうしてもある程度の結末を想像してしまう。

ピースが逮捕されるまで、強烈に盛り上がる箇所はかならずある。



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