レディー・ジョーカー 中 高村薫


2010.7.7  これが企業倫理だ 【レディ・ジョーカー 中】

                     
■ヒトコト感想
上巻での濃密な情報と緊迫した展開。本作では企業がどのようにして自分たちを守るのか。警察とマスコミを煙に巻きながら犯人たちとの裏取引を繰り広げる。もはやこの段階では、企業の敵は犯人たちではなく、警察そのものになっている。350万キロリットルのビールが人質にとられ、脅しともとれる異物混入事件が発生する。スクープを追い求める新聞記者と、刑事たちの駆け引き。ネタ元から情報を引き出そうとする記者たちの執念と、事件にうまみを感じる様々なハイエナたち。一つの事件を取り巻く執拗な執念の中で、社長のボディーガード役として送り込まれた合田だけが、一人冷静な判断力で事件を俯瞰しているような気がした。

■ストーリー

城山は、五十六時間ぶりに解放された。だが、その眼は鉛色に沈んだままだ。レディ・ジョーカーを名乗る犯行グループが三百五十万キロリットルのビールを“人質”に取っているのだ。裏取引を懸念する捜査一課長に送り込まれた合田は、城山社長に影のごとく付き従う。事件が加速してゆく中、ふたりの新聞記者は二匹の猟犬と化して苦い臭跡を追う。―カオスに渦巻く男たちの思念。

■感想
企業の利益を第一に考える社長であっても、本作のような選択をするのが当たり前なのだろうか。350万キロリットルのビールを人質にとられたからといって、犯人との裏取引が成功することだけを第一に考え、余計な手出しをする警察とは、見えない対立関係となる。情報を隠蔽し、執拗なまでの警察の疑いの目を避ける。犯人逮捕よりも、犯人の逆鱗に触れ、人質が殺されることを何より恐れる事なかれ主義。これが当たり前の企業の姿なのだろう。そんな企業の社長である城山の苦悩の生活が、余すことなく描かれている。

マスコミのスクープ合戦の中で、さらに複雑な利害関係が発生し、謎の人物も登場する。複雑に絡み合い、過去の因縁も含めどこからどこまでが事件に関係するのか頭の中を整理しなければ混乱する可能性がある。ネタ元への健気な情報収集と、ネタを漏らすことの危険性。マスコミ目線と警察目線、どちらも描かれていることもあり、強烈な事件のスクープがどのようにして生まれるかを垣間見たような気がした。それにしても、組織の重要な情報を、いくら信頼している新聞記者だからといってそう簡単に警察が漏らすものだろうか。このあたりの感覚が微妙に理解できなかった。

合田が城山のボディーガードとなる部分が本作の一番のポイントだろう。裏取引を進めようとする城山と、それを見抜こうとする合田。二人の駆け引きと、合田の冷静な判断力と観察力。組織になじまない男と、組織の頂点に立った男。相対する立場でありながら、どこか共通点を感じてしまった。事件の主役であるはずの犯人目線が本作では一切でてこない。そのため、不可解な現金受け渡し要求にどういった意味があるのか。危険を犯してまで実行する価値は?下巻では合田の頭の中におぼろげながら見えてきた犯人との直接対決と、事件を起こした目的がはっきりしてくるのだろう。

企業を守るため、犯人よりも警察を警戒する企業倫理のあり方。これが当たり前の巨大企業の姿なのだろう。

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