2010.8.9 これが企業テロの末路だ 【レディ・ジョーカー 下】
■ヒトコト感想
企業が犯人と裏取引したそのしわ寄せが押し寄せてくる。レディ・ジョーカー事件が終わったあと、事件を引きずるように様々な出来事が待っている。相変わらず作者の作品は、最終的に誰も幸せにならない。まんまと20億もの金を手に入れた犯人グループにしても、犯行の意味を見出せずにいる。模倣犯が発生し、企業として窮地に立たされた日之出ビール。身内から犯人を出そうとする警察。ミステリーの体裁をなしてはいないが、社会の暗部の縮図を見たようで非常に面白い。ある程度決着がつけられたものもあれば、なし崩し的に終わった部分もある。複雑に絡み合う利害関係の中で、何を第一に考えるのか。結局だれも幸せになっていないことを考えると、すべてが無常のように思われた。
■ストーリー
消エルコトニシタ…。レディ・ジョーカーからの手紙が新聞社に届く。しかし、平穏は訪れなかった。新たなターゲットへの攻撃が始まり、血色に染められた麦酒が再び出現する。苦悩に耐えかねた日之出ビール取締役、禁忌に触れた記者らが、我々の世界から姿を消してゆく。事件は、人びとの運命を様々な色彩に塗り替えた。
■感想
レディ・ジョーカー事件の後がメインとなる本作。上、中巻で描かれた濃密な世界は、すべて現実に起こりうる暗闇なのだろう。事件がある程度収束したとしても、誰も幸せにならず、悲しむ人ばかりが増える。スクープを目指した記者は、同僚が事件の影響で行方不明となり、企業は拭い去れない汚名を突きつけられる。当初の目的を最後まで達成したのは、結局犯人グループのリーダーである半田しかいないように思えた。合田であっても城山であっても、信念を貫いた結果もたらされた出来事には決して納得できることではない。
企業と総会屋の関係や、検察と企業の裏取引。さらには検察とマスコミの取引など、この世はすべて根回しと取引で成り立っているとまざまざと思い知らされる流れだ。裏取引をせず真っ当に情報収集し、尻尾をつかみかけた新聞記者は行方不明となり、事件を真摯に追い続けた警察幹部は大きな責任に耐え切れなくなる。最後に壮大なカタルシスを感じるような作品ではない。どこか物悲しく、この世の無常さに納得できない気分となる。しかしこれが現実だと思わせる強さがある。都合よくすべて丸くおさまるはずのない世の中をリアルにあらわしているようだ。
全巻をとおして一番印象に残っているのは、間違いなく企業トップのあり方だ。苦しい決断や、思いも寄らない出来事にぶち当たったとき、どうなるのか。社長誘拐というとんでもない事件を経験し、最後まで企業を守ろうとした社長の最後はあまりにもあっけない。その扱い方もかなりシンプルだった。いつもどおり、作者の作品らしく男同士の何かを匂わす描写や、真っ当な人物のはずがだんだんと壊れていく部分など、社会派作品とひとくくりにできない壮大さがある。
今後、現実に起きる企業テロ系の事件の際には、本作のような駆け引きがあるのかと、勝手に想像してしまいそうだ。
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