レディー・ジョーカー 上 高村薫


2010.5.21  すべてが手に汗握る展開 【レディ・ジョーカー 上】

                     
■ヒトコト感想
部落差別に企業テロ、超巨大企業の暗部。実在する企業をモデルにしたように、すべてが実話に思えてしまう。空虚な日常を過ごす五人の男たちが事件を企てるまで。社長誘拐が発生した直後の刑事の動き。そして、スクープを手に入れようとする新聞社。すべてが手に汗握る展開で目が離せない。巨大企業の暗部を含め、あまりに濃密な展開のため、何をメインとしてとらえれば良いのかわからないが、すべてがすばらしい。新聞社の描写など、あの名作クライマーズ・ハイを彷彿とさせる流れだ。事件の強烈さよりも、犯人、企業、警察、マスコミの四者による駆け引きによって物語がどのように動いていくのか。細部にまで書き込まれたリアリティが、すべてを現実のもののように思わせる。

■ストーリー

空虚な日常、目を凝らせど見えぬ未来。五人の男は競馬場へと吹き寄せられた。未曾有の犯罪の前奏曲が響く―。その夜、合田警部補は日之出ビール社長・城山の誘拐を知る。彼の一報により、警視庁という名の冷たい機械が動き始めた。事件に昏い興奮を覚えた新聞記者たち。巨大企業は闇に浸食されているのだ。

■感想
前半部分は正直なにが起こるのかまったく予想できない。ただ巨大企業が部落差別を理由に、なんらかの不祥事を起こしたにすぎない。それが中盤以降、物井たちが計画を実行すると、そこから怒涛の展開が待っている。まず誘拐事件に出くわした合田刑事の的確な動き。陰鬱とした想いを抱えながらもプロフェッショナルな仕事ぶり。事件を早期解決に導くための徹底した情報統制とあらゆる方面への根回し。一つの事件に対して刑事たちが、とても関係ないと思われることにまで心血を注ぐのか。圧倒的な調査力に体の中が興奮で熱くなってしまった。

警察の動きを察知したマスコミの動きもまた、興奮を促進させる。スクープを逃してなるものかと他社を出し抜くこうとする競争意識。協定が結ばれたとしても、協定が解かれた後、どれだけ情報を入手しているかが大きな鍵となる。あらゆる手段を使い、ネタを手に入れようとするマスコミの執念には驚かされる。ただ、ご都合主義的に情報を手に入れるのではなく、信じられないような地道な作業によりスクープを手に入れる。警察とマスコミ、この両者の動きのリアリティに圧倒されてしまう。

本作のもっともポイントとなるのは、間違いなく超巨大企業の暗部だ。五十六時間ぶりに解放された超巨大企業の社長が最初に考えることとは。企業を第一と考え、巨大な利益と年間の売上げを人質にとられた企業はどのような行動にでるのか。いつの間にか、犯人との対決よりも、企業対警察、企業対マスコミという図式になりそうだ。現実の企業の闇や、グリコ森永事件を彷彿とさせるような流れが、全てを物語っている。ここまで強烈なインパクトを残されると、誰もがまず間違いなく、本作にはまり込んでしまうだろう。

ぎっしりと詰まった情報を処理できるか、読者が試されているような気がした。

 中巻へ



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp