クライマーズ・ハイ 横山秀夫


2007.8.23 地方新聞社を舞台にした傑作 【クライマーズ・ハイ】

                     

■ヒトコト感想
圧倒的な新聞社内編集部の描写。今までこれほど濃密で、熱い、新聞社をテーマとした作品を読んだことがない。一つの地方新聞を作るのに、どれほど人々の思いが込められているのか。日航機墜落という大事件を目の当たりにした悠木と記者たち。本作を読むと、まったくミステリーという感想はもたない。しかし、一つの記事に対する思いと、スクープにかける熱い魂のようなものをヒシヒシと感じた。読んでいると、特別泣ける場面ではないはずなのに、熱い思いと必死な形相が目に浮かぶようで、自然と熱いものがこみ上げてきた。

■ストーリー

1985年、御巣鷹山に未曾有の航空機事故発生。衝立岩登攀を予定していた地元紙の遊軍記者、悠木和雅が全権デスクに任命される。一方、共に登る予定だった同僚は病院に搬送されていた。組織の相剋、親子の葛藤、同僚の謎めいた言葉、報道とは―。あらゆる場面で己を試され篩に掛けられる、

■感想
新聞といえば、なじみがあるのはどうしても全国紙になってしまう。しかし、いち地方紙といえども、地元で起きた大事件に対する熱い思いは強烈に感じることができる。全権デスクをまかされた者のプレッシャー、そして事故現場へいち早くたどり着けたものだけが書くことができる現場雑感。先輩後輩関係なく、下克上の様相を見せる記者たち。寝食を忘れ、記事に没頭する記者たちの、異常なまでの執念が本作からにじみ出ているようだった。

日航機墜落事故と共に、悠木と安西、さらには悠木の親子関係が密接に関わってくる。悠木の人となりは、この子どもとの関係からうっすらと感じることができるが、それと全権デスクでの行動には相反するものを感じてしまった。時には大胆かつ権力に対して向かう姿を見せたかと思えば、あっさりとスクープをあきらめてしまったり、一人の人間の悲喜こもごもが本作には凝縮されているようで、とても濃いものを感じてしまった。

本作はミステリーということになってはいるが、僕自身はまったくミステリーと感じることはできなかった。一人の人間の熱い思い。そして、それを回想しながら現在に生きるモノの心境。元新聞記者という作者だからこそ、書くことができた本作は、ただのミステリーという枠にとどまることなく、壮大な人間ドラマと、地方紙を題材とした新しく、そして熱い物語だと思っている。

大部屋での熱い激論は、ドラマにしても見栄えがするような気がした。恐らくそのうちドラマ化されるだろう。




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