2010.10.30 旅の途中の推理合戦 【黒と茶の幻想 上】
■ヒトコト感想
男女のグループが旅行に行き、そこで美しい謎を語りあう。麦の海に沈む果実に繋がる物語のように思えるが、その片鱗としては憂理の存在しかない。それぞれの回想の中で登場する憂理がいったいどうなったのか。メインの謎はそのあたりなのだろうが、まだこの段階ではそれぞれが語る謎を、誰かが解いていくという流れだ。ミステリー的な明確な解決があるわけではなく、話を聞き、そこから妄想を膨らませ、答えをだす。それは行き過ぎだろうと思うことも、他の面々が納得し、さも真実はそうだという説得にかかる。個々のミステリーにどれだけ興味を持てるか。本作の後半に登場する影彦の謎はそれなりに面白いが、その他は微妙だ。旅の道中で何か隠された真実を告白する系の物語だ。
■ストーリー
太古の森をいだく島へ―学生時代の同窓生だった男女四人は、俗世と隔絶された目的地を目指す。過去を取り戻す旅は、ある夜を境に消息を絶った共通の知人、梶原憂理を浮かび上がらせる。あまりにも美しかった女の影は、十数年を経た今でも各人の胸に深く刻み込まれていた。「美しい謎」に満ちた切ない物語。
■感想
旅をしながら、決定的な真実をさぐりだそうとする物語なのか。この旅自体も、それを目的として企画されたものなのか。この手の過去を探りつつ、隠された真実を探る推理合戦というのは、ある程度定番的な流れがある。本作もそのたぐいなのか、もしくはまったく違った流れなのか。まだこの上巻ではまったく先が見えてこない。それぞれが考えた美しい謎を誰かが推理する。謎自体は実体験にもとづいていたり、単純な疑問から導き出されたものあり。ある程度年齢のいったいい大人たちが、推理合戦という名の大告白大会を開催する。非日常だがそんな雰囲気を感じることはない。
グループの中で過去に付き合っていた男女がいるということも、大きなポイントなのだろう。推理合戦の合間には、男女の考え方の違いや、ちょっとした小ネタなど、バラエティに富んでいる。単純に会話を繰り広げているだけのような気もするが、後半への伏線になっているのかもしれない。子供を育てる立派な母親あり、離婚調停中の男あり、シングルを楽しむ男や、独身を楽しむ女など、人間関係の微妙さが、物語に多少のスパイスを付け加えている。すべての鍵を握るのは間違いなく憂理なのだが、どういったかかわりになるのか。憂理の生死が関係することは間違いない。
ちょっとした旅行小説的な要素もあるので、Y島という間違いなく屋久島をモデルとした場所を、旅行した気分になれるかもしれない。優雅にリゾート気分を味わいながら、登山を行う。推理と屋久島がまったく結び付かないが、もしかしたらどこかに意味があるのだろうか。屋久島の広大な自然と、ちょっとした不思議な話として繰り出される推理のネタ。のんびりしているように感じつつも、どこか危険な駆け引きの香りも感じられる。腹の探りあいという部分が少しはあるのかもしれない。それらの答えは下巻にはっきりと示されるのだろう。
旅の途中に繰り広げられる推理合戦の答えは、あまりに強引すぎると感じる可能性がある。
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