孤宿の人 上 宮部みゆき


2010.6.9  藩を守るための事なかれ主義 【孤宿の人 上】

                     
■ヒトコト感想
江戸幕府の時代。純真無垢な少女の”ほう”が直面する理不尽な出来事。丸海藩を守るため、臭いものに蓋をしようとする人々。毒死や怪死が頻発したとしても、藩のおとりつぶしを避けるため、お上に知れ渡る前にすべてを内々にし、なかったことにする。時代的なもので、当然のように描かれているが、真実を追い求める者は存在する。藩のために真実を隠蔽するのか、それとも…。現代にも当てはまる、ことなかれ主義を感じさせ、さらにはすべては位の高い者たちだけで決められ、下の者たちはどんな理不尽なことが起きようとも我慢しなければならない。幕府が送り込んだすべての元凶である加賀とはいったいどんな人物なのだろうか。上巻では、アンタッチャブルな存在である加賀の不可思議さばかりが強調されている。

■ストーリー

讃岐国、丸海藩――。この地に幕府の罪人・加賀殿が流されてきた。以来、加賀殿の所業をなぞるかのように毒死や怪異が頻発。そして、加賀殿幽閉屋敷に下女として住み込むことになった少女ほう。無垢な少女と、悪霊と恐れられた男の魂の触れ合いを描く渾身の長編大作。

■感想
藩を守るのか、それとも不遇な死を遂げた娘の敵を討つのか。本作では大人の事情と、私情のハザマで苦悩する人々が描かれている。幕府から送り込まれた謎の存在である加賀。一般人は姿を見ることすらできない存在。罪人であるはずが、不自然な高待遇と、悪魔と恐れられている存在。この姿が見えない加賀を中心に、腫れ物に触るように近づくこともできず、問題が起きることも許されない。そんなとき、ある一人の女が殺されることになる。理不尽なまでに藩を守ろうとする大人たち。そんな中、純真無垢な”ほう”だけは真実を口にだそうとする。

時代が時代だけに、藩のおとりつぶしを避けなければならないというのはわかるが、それがここまで強固になるものだろうか。娘が毒死させられたとしても、口を閉じどんな出来事が起きても、なかったことにする。この強烈な、事なかれ主義というのは現代にも通じるものがあるのかもしれない。口封じのために始末する。藩を守るためには仕方のないこと。常識はずれな中でも、”ほう”と一部の者たちは、真実をどうにかして暴こうとする。ここまで周りが恐れる加賀とは一体どんな人物なのか、上巻では加賀にまつわる恐怖伝説ばかりを強調している。

ミステリーとして毒が何か鍵になるのだろう。食中毒なのかそれとも毒なのか。水がどうだとか、薬もとりすぎれば毒となる。作者独特の伏線を多数ちりばめながら、物語は結末まで一直線に進んでいく。身分の違いや立場の違いで耳に入る情報も大きく違ってくる。必然的に読者は”ほう”と同等か、ほんの少しうわまった情報しかない。理不尽な情報操作と、加賀が軟禁される涸滝ではいったい何が起こっているのか。上巻のラストで衝撃的な出来事が起こり、いやがおうでも下巻に対する期待も大きくなる。加賀とはいったい何者なのか…。

時代物に慣れていなければ、辛いかもしれないが、下巻が楽しみだ。

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