孤宿の人 下 宮部みゆき


2010.6.14  歴史上の人物をモデルに 【孤宿の人 下】

                     
■ヒトコト感想
上巻では藩を守るため、どんな事件や事故が起こったとしても、すべてなかったことにし、加賀を無事守り通している。極度の事なかれ主義から、加賀の周辺で少しでも不祥事が起これば、ひっそりと詰め腹を切らされる。加賀の正体が判明し、噂の真相や毒との関係など、すべての疑問を明らかにしている。歴史上に実在した人物をモデルにしているそうなので、歴史に詳しい人ならばより楽しめることだろう。歴史に疎かったとしても、責任の所在が明らかにされると下の者から責任をとらされる理不尽な習慣には納得いかないかもしれない。人の噂や、隠れた悪意などいつの時代も裏でうごめく陰謀に巻き込まれるのは、何も知らない庶民や身分の低い者たちということなのだろう。

■ストーリー

加賀様は悪霊だ。丸海に災厄を運んでくる。妻子と側近を惨殺した咎で涸滝の屋敷に幽閉された加賀殿の崇りを領民は恐れていた。井上家を出たほうは、引手見習いの宇佐と姉妹のように暮らしていた。やがて、涸滝に下女として入ったほうは、頑なに心を閉ざす加賀殿といつしか気持ちを通わせていく。水面下では、藩の存亡を賭した秘策が粛々と進んでいた。

■感想
怨霊や魔として恐れられた加賀の正体が明らかとなり、加賀が魔として恐れられていた原因の話や真実が語られている。歴史上の人物をモデルにしているということで、あとがきに書かれているように元ネタを知っていれば間違いなく楽しめることだろう。作者が想像した人物像。裏の真相までも語る本作は、まるで歴史書には書かれていない、真実を暴くようで興味深い。藩を守るため、あらゆる犠牲をはらいながら、加賀を守り抜く。理不尽さを強く感じるのは、問題が発生したとき、最初に詰め腹を切らされるのが下っ端の者たちだということだ。

純真無垢な少女である”ほう”が見た加賀の姿。”ほう”が加賀を慕えば慕うほど、”ほう”を管理するはずの者たちがこの世を去るという、辛く悲しい現実がある。誰もがそのことに気付きながら藩を守るため、おとりつぶしにさせないために奔走する。加賀の行き着く先や、跡目争いなど、様々な要素が絡み合いミステリーの度合いも強い。しかし、一般的なミステリーのようにしっかりとした種明かしや犯人が捕まるわけではない。あくまでもメインは加賀の存在にあるのだから。

ラストはまるで古今東西の言い伝えや迷信が本作のようにして作られたかのように、ある結末を示している。それは加賀の祟りを恐れる村人や江戸幕府の将軍を納得させ、なおかつその存在があるだけで藩の重荷となっている加賀がどうなるのか。火事や雷など偶然の出来事を利用し、人々を安心させ落ち着かせる策を練る。こうなってくると、すべては人の心の持ちようでどうとでもなる。加賀は最初からなんでもないただの人で、人々が作り上げた加賀の存在が、その作り上げた人々に厄災を運んだのだろうと思えてくる。

歴史的背景や、モデルとなった人物を知っていればさらに面白く感じるだろう。




おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp