黒笑小説 東野圭吾


2008.10.18  小説家にとっては笑い事ではない 【黒笑小説】

                     
■ヒトコト感想
過去に毒笑小説怪笑小説を読んだのだが、短編としての軽快さとシニカルな雰囲気はなかなかよかった。本作も基本はその流れなのだが、冒頭からいきなり小説家を題材としており、題名どおりかなりブラックなスタートとなっている。小説家というものが、人気商売で、問答無用の世界だということ、そして、編集者との関係。まるで、自分の経験を語るがごとく、シニカルな笑いをふりまいている。もしかしたら、本作を読んで”笑えない”状況にある作家も沢山いることだろう。売れっ子作家とマイナー作家。その闇の部分を、売れっ子作家である東野圭吾が描く。まさにブラックだ。

■ストーリー

平静を装いながら文学賞の選考結果を待つ作家、内心では「無理だろう」と思っている編集者――。文壇事情を皮肉たっぷりに描く短編の他、笑いをテーマにした作品を収録した傑作短編集。

■感想
売れっ子作家である作者も、売れない時代が長かったらしい。その経験?と周りの状況を見て描かれた作品なのだろうか。売れない小説家ほどつぶしのきかない職業はないと思うのだが…。そんな、かなりブラックな流れからスタートした本作。その他の短編はおおむねバカバカしいものが多い。ストーリー的にひねりが利いているのは分かるのだが、あまりにバカバカしすぎて、あっけにとられてしまう。毒笑や怪笑はそこまで感じなかったのだが、本作はそのバカバカしさが際立っているように感じてしまう。最初にブラックすぎる話だったからだろうか。

短編の良さはさらりと読めるところだ。本作も気軽に電車の中で読めるような作品が多い。そして、バカバカしさも頭を使う必要がないので、楽に読める原因なのだろう。ただ、読み終わってから印象に残らない。なんでもおっぱいに見える男や、インポにする薬など、くだらなさの極みだろう。不思議な話で言えば、世にも奇妙な物語に出てきそうな話だと思うのだが、本作はバカバカしすぎて、そうも思わなかった。さすがにドラマで、はげたおっさんの頭がおっぱいに見えるなど、できるわけがない。

毒笑や怪笑はシニカルな中にも、何かを考えさせられるものがあった。本作はまったくといっていいほどなかった。垂れ流しだ。心地よいリズムでスラスラと読めるかわりに垂れ流す。情報多寡のこの世界では、たまにはこんなことも必要なのかもしれない。興味深いのは前半に登場する、売れない作家である”寒川”の行く末ばかりかもしれない。

黒いのは”寒川”関係だけかもしれない。



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