ジェネラル・ルージュの凱旋 下 海堂尊


2009.11.24  緊急医療のダイナミックさ 【ジェネラル・ルージュの凱旋 下】

                     
■ヒトコト感想
上巻から引き続き、速水のかっこよさは際立っている。上巻でばら撒いていた伏線が次第に明らかとなり、物語は収束していく。基本的にミステリーの要素がほとんどなく、上巻から浮かんでいた疑惑がそのままオチということになる。はっきりいえば、よくあるパターンの話かもしれない。作者が医者だけに、現代医療システムの問題点を語っているのだろう。単純な話なのだが、ここまでダイナミックに面白くできるのは、作者の力量にほかならない。まず、キャラクターがすばらしく魅力にあふれている。速水など、実力があり部下にも慕われ、上司や権威には反発する。絵に描いたようなヒーローだ。ジェネラルルージュというあだ名のとおり、将軍という冠が最も似合うようにも思えた。キャラクターの良さがすべてを凌駕している。

■ストーリー

高階病院長の特命で、速水部長の収賄疑惑を調べ始めた田口だったが、倫理問題審査委員会による介入や、新人看護師と厚生労働省のロジカル・モンスターの登場でさらに複雑な事態に巻き込まれていく。悲願のドクター・ヘリ導入を目前に、速水は病院を追われてしまうのか。切り捨てられゆく不良債権部門・救急医療を守る男の闘いと、医療の理想と現実をダイナミックに描き出した傑作エンターテインメント。

■感想
上巻で発生した疑惑が、そのまま下巻でも引継ぎ、そのままオチになるとは思わなかった。何かひねりをきかせたトリックでもあるのかと思った。病院経営と現場の軋轢というのは簡単に想像できる。それは何も病院だけの話ではなく、どこの組織でも発生することだ。決定的に違うのは病院が人の命を預かっているということだけだ。上巻ではカリスマ的扱いであった速水が、下巻では別の顔を表すのではないかと思っていたが、それもなかった。速水は最後まで徹底してかっこよく、カリスマ性をもちあわせていた。

一人ずぬけている速水と対抗すべき人物が弱いというのが、本作の唯一の欠点だろう。田口はもちろんのこと、エシックスの面々でさえも役不足のように感じられた。白鳥だけが何か事を起こすかと思いきや、速水側についてしまったので、ほとんど波風は立たなかった。本作は速水の独り舞台といってもいいだろう。病院システムの問題点を速水を通して作者が語る。そこにはどうしようもない真実があり、どうにもできない現実がある。結局、速水が起こした問題提起に対して、何の答えもだしていない。さすがに明確な解決策はだせなかったのだろう。

緊急医療の現場ということで、ダイナミックな描写が多々ある。本作が映画化されたというのも、うなずけることだ。映像的には見栄えがし、緊急医療の緊迫感というのは、見ているものを引き付ける何かがあるのだろう。トリアージだとか、専門用語がでてくるが、自然とそのあたりの用語も調べてしまった。病院経営のあり方を語り、ミステリーを排除した、単純なエンターテイメントとして成り立たせる。難しい専門用語が飛び交うので、とっつきにくい場合もあるが、それらすべてをキャラクターの魅力で吹き飛ばしているのはすばらしいことだ。

このシリーズはずっと続くのだろう。キャラの魅力はそのシリーズの財産だ。



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