2010.8.2 作者の意見を強烈に主張 【イノセント・ゲリラの祝祭 下】
■ヒトコト感想
上巻の流れで危惧したことが現実となった。ミステリー要素は皆無で、エンターテイメントとしての面白さもほとんどない。あるのは、作者が常日頃思っている主張だけだ。作者の現代医療制度のあり方に対する強い思いを、新しく登場した彦根にしゃべらせている。彦根の考えはかなり飛躍しており、とんでもない結論にまで達している。到底実現できないようなことだ。ただ、現実とリンクさせてもしょうがないので、物語として成立しているかというと…。これまた、成立していない。終始委員会での議論の応酬が続き、現実の問題と改革を訴える。現在医療の問題点を理解できたのはいいが、なんとなく物語というよりも、作者の夢をダラダラと披露されているような気がした。
■ストーリー
厚生労働省のロジカル・モンスターこと白鳥圭輔から呼び出しを受けた田口公平は、医療事故調査委員会に出席するため、日本の権力の中心地、霞ヶ関に乗り込んだ。だがそこで彼が目にしたのは、崩壊の一途を辿る医療行政に闘いを挑む、一人の男の姿だった。
■感想
いつもの白鳥と田口、そしてミスター厚生労働省など、上巻から引き続きそれぞれが自分の考えを披露する。上巻ではミステリアスな存在であった彦根は、結局たいした存在ではなく、ただ作者の思いを何のしがらみもなく話続けるだけの人物だった。潜入捜査中であるはずの姫宮や、彦根の相棒であったはずの檜山などもまったく活躍しない。中盤までの流れから、あっという間に結末の議論にたどり着いてしまう。明らかに途中で方向転換したように感じた。本来なら檜山はもっと活躍するはずだったのだろう。
現実問題として解剖がどの程度行われているか、そしてAI(オートプシー・イメージング)の有効性を説いている。このあたりは作者のライフワーク的なものなので、シリーズの読者であればもうおなじみかもしれない。今回は、事件や事故がまったく起きることなく、委員会でそれぞれの権威たちを相手に田口と彦根と白鳥が主義主張を繰り返すという形で終わっている。そのため、読み終わると、問題点については良く分かるが、物語としていったいなんだったのか、ほとんど印象に残らない。
ラストの議論で彦根がとんでもないことをぶちまける。さすがにいくら物語の世界だからといってそれは行き過ぎだろうと思えてしまう。作者としては一番言いたかったことなのかもしれないし、それなりの人気シリーズなので影響力があるかもしれない。しかし、やりすぎだ。最後の議論を読むと、とたんに漫画的に思えてしまう。今までしっかりと現実路線できていたものが、ここへきて一気に崩れたような気がした。AIは現実でも何かしら動きがあるようだが…。
シリーズの中では異色な作品かもしれない。
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