イノセント・ゲリラの祝祭 上 海堂尊


2010.5.19  不審死はすべて心不全 【イノセント・ゲリラの祝祭 上】

                     
■ヒトコト感想
医療問題をテーマとすることで、広くその問題を世に知らしめている。今回は解剖について描かれているシリーズ。ミステリー的な事件や事故はまったくといっていいほど起こらない。ただ、路上で野たれ死んでいる人がいたとしても、解剖されず心不全として済まされる場合があるということに驚いた。理由は解剖費が捻出されないということと、システムが整っていないということ。まさかこんなことがまかり通るのかと思えるようなことも通じてしまう。医療業界の常識は一般とはかけ離れた常識となる。医療現場と厚生労働省幹部たちの激しいつばぜり合い。いったい目指す先はどこなのか。知られざる医療の問題点を知るきっかけとして、これほどすぐれている作品はない。

■ストーリー

医療行政の本丸・厚生労働省で行なわれた会議に、不定愁訴外来担当の田口を招聘した厚労省の変人役人・白鳥。迷コンビ、田口・白鳥が霞ヶ関に乗り込み大暴れ!?現代医療のさまざまな問題点を鋭く描きだすエンターテインメント。

■感想
いつもの白鳥、田口コンビは、今回は少し毛色の違う展開となっている。事件や事故が起こり、それが医療問題と絡むのが今までの流れだが、今回はまったくといっていいほど事件は起きない。最初に宗教団体の不審死関連が登場するが、それは解剖がどれほど行われないかを表現する手段にすぎないのだろう。作者が昔から主張していたエーアイ。オートプシー・イメージングの必要性をアピールするための作品とも思えてしまう。作者の強い思いが入った作品だけに、自然とエーアイを支持する流れになるのは当然だが、そこに至るまで、現在の問題点をわかりやすく伝えている。

白鳥と対等に渡りあえる新キャラクターが霞ヶ関に登場し、さらにはなにやら過去に大きな事件を起こした人物までも登場する。まだ上巻では物語の全容はみえてこない。医療の未来を憂いながら、何か大きな改革を行おうとする白鳥。厚生労働省内の権力闘争や、一つの委員会の主導権争い。お互いの利害関係がぶつかると、最終的にどのあたりに落ち着くのか。一市民としては不審死に対してほとんど解剖されないような社会だと知らなかっただけに、それだけはなんとか解決する策を提示してほしいと思った。

上巻ではまだスリリングな展開はない。気になる部分もほとんどない。このまま何の盛り上がりもなく終わることはないだろうが、今までの作品と比べるとちょっと引きが弱いような気がした。小難しい描写や専門用語が多く、委員会という一般人になじみのない部分がメインになっているのも関係しているのだろう。姫宮がなにやら潜入捜査を行っているという伏線があり、それが大きく下巻で花開くのだろうか。事件的なスリルがないだけに、ただウンチクと作者の考えを田口や白鳥にしゃべらせて終わりそうな気もした。

すべては下巻のできしだいだ。

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