赤・黒-池袋ウェストゲートパーク外伝 石田衣良


2009.11.30  判りやすいバクチもの 【赤・黒-池袋ウェストゲートパーク外伝】

                     
■ヒトコト感想
池袋ウェストゲートパークの外伝となっているだけに、池袋~を読んでいた方がより楽しめる。メインはカジノでの緊迫感あふれるバクチなのだろう。一攫千金を目指して誘われるままにヤクザの金を奪おうとし、それが失敗し、どうにもならない状況に追い込まれる。命を懸けたバクチの緊迫感はわかるが、それでもちょっと他人任せというか、しびれるような空気を感じられなかった。カジノの名作といえばジゴクラクというのがあり、この空気感ほどではなかった。そうは言ってもストーリー的にはまとまっており、シンプルだ。ひねりがないとも言えるが、わかりやすいのは良いことだ。全ての賭けが終わったあと、無事にその後の生活がおくれたのか。到底そうは思わないが、物語はそこで終わっている。

■ストーリー

一時間で一億円の大博打。映像ディレクター小峰が誘われたのは、池袋最大のカジノ売上金強奪の狂言強盗。ところが、その金を横取りされた。どん底から這い上がる男たち…。逆転の確率は二分の一。赤か黒。人生の全てをその一瞬に賭ける。

■感想
シリーズを読んでいれば、本作のメインの一人でもあるサルや、ちょい役だが存在感のあるタカシなど、なつかしの名前がでてきて楽しめるだろう。外伝ということで舞台は池袋だが、池袋ウェストゲートパークらしいかというと、そのあたりは微妙かもしれない。主人公が映像ディレクターで金に困っている30過ぎの男。若者が活躍する本編とはうってかわって大人の香りがする本作。その後の生活や、人生についても語られるあたりが本編との大きな違いかもしれない。どん底を味わった男たちの戦いとでも言うのだろうか。

狂言強盗から始まる物語も、最後にはヤクザ同士の複雑な抗争から、カジノへと舞台は移っていく。カジノで大勝し、敵対する組織の金をねこそぎ奪い取るというのは、一見とんでもないことのように思えるが、正統な手段だ。もっと相手の裏をかいて、まんまとはめ込むような、そんな展開を予想していた。カジノでの描写では、淡々と繰り返されるルーレット勝負とその金額の多さから、緊迫感あふれる展開だと錯覚してしまう。しかし、実際にはルーレットの目を読める理由もなんだか曖昧だし、都合がよすぎるような気がした。

カジノの緊迫感はラストの赤黒どちらかという場面がピークだ。同じくカジノを舞台とした作品にジゴクラクというのがあるが、そのヒリつくような緊迫感には負けている。人の命をかけたバクチというのが、結果がでるまでほんの数秒が何時間にも感じるのだろう。そのことを感じることができたのはジゴクラクだけだった。そうは言っても本作は、非常に読みやすくシンプルでわかりやすい。カジノの知識がなくても、十分に緊迫感を味わうことができる。そういった意味では、バクチものとしての入門編と言えるのかもしれない。

カジノに対する印象よりも、どちらかといえばヤクザの物語のような気がした。



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