2009.3.20 不思議な世界へどっぷりつかる 【本所深川ふしぎ草紙】
■ヒトコト感想
現代を舞台にしていないだけに、最初は違和感を感じた。しかし、それも読んでいくにつれてまったく感じなくなり、いつの間にかその世界にどっぷりとはまり込んでしまった。時代的なものをうまく使い、その時代ならでわの悩みをモチーフとする。そして、摩訶不思議な出来事をミステリーに展開していく。時代的なものと、探偵役として登場する茂七。この流れはなんとなくだが京極夏彦の作品に似ているようにも感じられた。短編ということで、サラリと読め、読後感もすばらしい。いつの間にか頭の中には、本所深川の世界が構築され、ボロをまとった女たちが忙しく働く姿を思い浮かべてしまった。読み終わると自然に心の中が暖かくなったような気がした。
■ストーリー
近江屋藤兵衛が殺された。下手人は藤兵衛と折り合いの悪かった娘のお美津だという噂が流れたが…。幼い頃お美津に受けた恩義を忘れず、ほのかな思いを抱き続けた職人がことの真相を探る「片葉の芦」。お嬢さんの恋愛成就の願掛けに丑三つ参りを命ぜられた奉公人の娘おりんの出会った怪異の顛末「送り提灯」など深川七不思議を題材に下町人情の世界を描く7編。
■感想
それぞれの短編になんともいえない不思議な出来事が起こる。それはどういった理由で、そして、何が原因なのか。ミステリーとは程遠いようなテーマであっても、最後にはしっかりとオチをつけてくれる。現代ではないかわりに、その時代でしか現せないものをテーマとしている。その日食べるものにすら困る人々。恋愛であっても、便利なツールはなく、純粋に人と人のぶつかり合いで成り立っている。それらをうまく利用し、現代では表現できない部分を巧に描いている。読んでいて違和感を感じるのは最初だけ、最後には本作の世界にどっぷりとはまり込んでしまう。
全体的に軽目なミステリーとでも言うのだろうか。ほのぼのとして、そしてはっと気づかされる部分もある。ただ、短編なだけに、ちょっと物足りないというのはある。事件を解決するまでに、どこまで謎をひっぱることができるのか。謎を謎として、不思議なことを不思議なこととして十分読者に認識させることはできていると思うが、それでもまだ少し物足りないというのはある。終わってみれば、良くあるパターンの終わり方だというのはある。それにがっかりするのか、結末に至るまでの過程を楽しむのか、それは人それぞれだろう。
本所深川のおかっぴき。そして、本作の探偵役でもある茂七。まるですべてをお見通しのように、最後には事件を解決していく。悲惨な結末というよりも、あーよかったというほのぼのとした終わり方が多いのも本作の特徴だろう。そのため、読み終わった後は非常にすっきりする。しかし、物足りないという思いも多少ある。事件の規模や、物語のドラマチック感は作者の長編作品に比べると、どうしても見劣りしてしまう。短編として住み分けできているという言い方もできるかもしれない。
強烈なインパクトを残すことはない。しかし、心地よい読後感はある。
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