ひかりの剣 海道尊


2010.9.8  剣道ものは小説に向いている? 【ひかりの剣】

                     
■ヒトコト感想
ジェネラル・ルージュの凱旋の速水とジーン・ワルツの清川。いつもどおり、シリーズを読んでいる人ならば楽しめる要素が詰め込まれている。若い速水や田口。講師の高階など、キャラクターがすでに出来上がっているだけに、余計な説明なしに楽しむことができる。ただ、本作は医療関係の話ではなく、剣道がメインとなっている。そのため、剣道にまったく興味がない人には辛いかもしれない。剣道の強者同士の戦いにおける、緊迫した空気感というのは非常によく表現されていると思う。他のスポーツに比べると心理的要素が大きい競技なので、小説には向いていると思うが、それでもマニアックなことには違いない。

■ストーリー

東城大の虎・速水と、帝華大の伏龍・清川がまだ医学生で剣道部員だったバブルの頃。2人のあいだに医鷲旗をめぐる伝説の闘いがあった。

■感想
速水と清川。どちらの登場作品もすでに読んではいるが、キャラ立ちしているのは明らかに速水の方だ。本作では速水よりも清川に重点が置かれており、清川の印象がガラリと変わったといってもいい。それに対して、速水については概ねイメージどおりだった。ただ、予想外に剣道に燃えていたのだなぁという印象だ。速水は部活に熱心になるというよりも、フラフラと遊び歩いているイメージがあった。メインの二人以外にも、剣道の団体戦ということで、その他のキャラクターもそれなりに力を入れて書かれている。

医学部生限定の剣道の大会があるということにまず驚いた。もしかしたら作者は剣道部だったのだろうか。医学部という勉強に忙しい学部にあって、部活に力を入れる。これは想像以上に大変なことだろう。作中でも、勉強と剣道の合宿的なものが登場してくる。医学部の剣道部というのはまったく未知の世界なので興味深い。さらには、強者同士の剣道の戦い独特のピリピリとした緊迫感。実力差がありすぎると子供と大人の対戦のようになり、老人であっても強い者は強いという剣道の不思議さ。一対一の戦いは小説に向いている。

医鷲旗をめぐる大会において、団体戦ということで脇役たちの活躍にも目が離せない。剣道未経験者にとっては、剣道の強さが何によって決まるのか、本作ではなんとなくしか感じることができない。脇役たちと主役の違いは単に経験だけでなく、もっと大きな見えない部分にあるような気がした。それは作中に登場する高階の強さであってもそうだ。もしかしたら、剣道経験者である作者からしても、その強さの理由をはっきりと文章にすることができないのかもしれない。

医療系とは無関係だが、剣道の緊迫感は十分に味わうことができる。



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