ジーン・ワルツ 海堂尊


2010.8.31  実は知られていない出産のリスク 【ジーン・ワルツ】

                     
■ヒトコト感想
産婦人科医師が主人公の物語。プライベートでの出来事が大きく本作の評価に大きく影響しているのだが、つい最近子供が生まれた身としてみれば、本作は非常に興味深く、また感動してしまう。もし、1年前に読んでいたとしたら、これほど感動はしなかっただろう。当たり前と思われていた安全な出産。子供は常に元気に生まれてくるものかと思っていた。しかし、実際には様々なリスクがともなっている。メインは代理出産のミステリーだが、発生学や出産方法、そして、障害を持つ子供が生まれる理由など、物語に詰め込まれている情報は膨大だ。現実に起こった産婦人科医師逮捕の問題を扱っており、医療現場の問題をわかりやすく説明してくれている。かなり赤裸々な物語なので、出産前の人は読まない方が良いかもしれない。

■ストーリー

帝華大学医学部の曾根崎理恵助教は、顕微鏡下体外受精のエキスパート。彼女の上司である清川吾郎准教授もその才を認めていた。理恵は、大学での研究のほか、閉院間近のマリアクリニックで五人の妊婦を診ている。年齢も境遇も異なる女たちは、それぞれに深刻な事情を抱えていた―。

■感想
妊娠すれば、誰もが元気な子供を生めるものと思っていた。実際には、帝王切開の確率はそれなりにあり、障害を持った子が生まれる確率もそれなりにある。当たり前と思っていたことが、実は違う。つい最近親となった身としては、母子共に無事で健康であることがどれだけ重要かとあらためて思った。もし、本作を出産前に読んでいたとしたら、不安で夜も眠れなくなっていたかもしれない。物語としてインパクトを与えるために、誇張して描かれているというのもあるが、子供を願ってやまない女性に、障害を持った子供だと伝える場面は、悲しみに溢れている。

人の親となって初めて感じることがある。恐らく独身時代に読んでいたら、これほど感銘を受けていないだろう。今読んだからこそ感じること。産婦人科医の過酷な労働環境と、医療行為のリスク。代理出産関連のミステリーはオマケみたいなものだ。物語を通して作者の言いたいことがはっきりと伝わってくる。医療事故により産婦人科医師が逮捕されたという問題と、産婦人科医療の現場がどれだけ崩壊しているか。何をもって母親と判断するのか。倫理的な問題もあるが、作者はより現実に沿った答えをだそうとしている。

本作はミステリー的な面白さは少ない。人によっては退屈な作品と感じるかもしれない。しかし、高校生であっても大学生であってもいずれ子供を持とうと考えている人は、読んだ方が良いだろう。本作を読むことで、自分が五体満足で生まれたことに幸せを感じ、これから生まれてくるであろう子供にも感謝をする。作中のある人物が言った言葉の中で非常に印象深いものがある。「子供は希望のかたまり」だという言葉を読んだとき、確かにそうだと変に感動してしまった。自分の今の状況とちょうどリンクしているからそう思ったのだろうが…。

どうやら映画化されるようだ。




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