日暮らし 下 宮部みゆき


2009.9.12  「ぼんくら」を読むべき 【日暮らし 下】

                     
■ヒトコト感想
中巻までに事件の概要がはっきりとし、真犯人はいったい誰なのかという思いが強くなる。江戸深川で暮らす人々の複雑な人間関係。弓之助がまるで京極堂のように、事件の真相を暴く。真犯人は上巻の短編で登場した印象深い人物かと思いきや、かなり意外な人物だった。真犯人が誰なのか、それによって物語の評価も変わりそうなのだが、予想外な人物で期待を裏切られたといったほうが良いのかもしれない。複雑な人間関係や今までの伏線がいかされていない。なんとなくだが、とってつけたような真犯人に思えてしまった。深川で生活する人々の暮らしは非常によかった。それだけに、肝心の事件解決がこれでは残念でしょうがなかった。ぼんくらを読んでいればまた印象は変わったのかもしれない。

■ストーリー

「ねぇ叔父上、ここはひとつ、白紙に戻してみてはいかがでしょう」。元鉄瓶長屋差配人の久兵衛からもたらされた築地の大店。湊屋が長い間抱えてきた「ある事情」。葵を殺した本当の下手人は誰なのか。過去の嘘や隠し事のめくらましの中で、弓之助の推理が冴える。

■感想
どうやら本作は「ぼんくら」の続編にあたるらしい。あとがきを読んで気づいた。そのことを最初から知っていたら、絶対にぼんくらを先に呼んでいただろう。ぼんくらを読まなかったせいで、面白さの何割かを味わえなかったのは非常に残念だ。作中、特に中、下巻にかけて、上巻にはでてこないエピソードをにおわす描写が多々あり、気になっていたのだが、まさか別の作品だとは思わなかった。ある程度上巻でキャラ付けされているとはいえ、一本の作品として描かれたエピソードを読んでいないのは致命的だ。

そうは言っても、中巻までに構築された世界にはしっかりと入り込めたまま本作を読むことができた。個々のキャラクターは生き生きとし、その特徴までもしっかりと把握している。このまま真犯人がどういったいきさつで事件を起こしたのか、非常に気になる部分だった。それが、結局はとってつけたような真犯人だった。今までのエピソードに深く関わる人物であるわけでもなく、特別な印象を残した人物でもない。もしかしたら、「ぼんくら」に登場していたのかもしれないが、本作としては印象の薄いキャラクターだった。

あっと驚くようなこともなく、複雑なトリックもない。人との繋がりと、そこに巣くう人の悪しき心が事件を引き起こしたというような流れのはずだったが、どうにもしっくりこなかった。真犯人を暴くあたりはステレオタイプな探偵小説的に、関係者を集め、ちょっとした芝居を演じている。江戸時代であるはずが、下手に現代的であったり…。普通と違う時代小説ミステリーを期待していただけに、この流れはちょっとがっかりしたかもしれない。上、中巻とすばらしかっただけに、なんだかもったいないような気がした。

作者の時代ものが好きなだけに、残念だ。



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