発火点 真保祐一


2010.9.7  必要以上に反発する若者 【発火点】

                     
■ヒトコト感想
同情されればイラだち、好奇の視線にイラだち、周りに毒をふりまく若者が主人公の作品。「父親が殺されたかわいそうな子」というイメージから抜け出すため、必要以上に反発する。この何にでも噛み付く性格は、奇跡の人の主人公を思い出した。人の心をミステリーとして扱い、どういった理由があったのか、何を考えていたのかを物語の核としている。心を閉ざした敦也がどのように変化していくのか。敦也に感情移入はできないが、周りの人たちの気持ちはよくわかる。敦也の成長物語と言えなくもないが、若者らしい素直さを感じるのとは別に、ある違和感を覚えてしまった。作者の作品には良くあることだが、ある秘密を調べるために、過去の細かいことまで調べつくす。これはどうなのだろうか。

■ストーリー

12歳の夏、父が殺された。父の友人だった人が、なぜ殺人を犯したのか。どうして、周りは「父親を殺されたかわいそうな子」としか自分を見ないのか。事件以降の9年間、殺人の理由がわからぬ不安と、犯罪被害者として受ける好奇の視線から逃れるため、心を閉ざして生きてきた主人公、杉本敦也。2人の女性との恋愛を通じて大人へと成長し、あらためて過去の出来事を見つめなおした敦也が得た真実とは…。

■感想
父親を殺された子供が大人となり過去を思い出す。子供時代の回想と、現代の主人公が交互に描かれ、ジワジワと敦也が送ってきた人生がわかってくる。子供時代では、沼田という父親の友達と一緒に住むことになった経緯と、家族間でどのように行き違いがあったかが描かれている。沼田という人物を家に引き入れたため、父親に悲劇が起きたと思い込む主人公の悲観的な考え方。そして、だんだんと変わっていく少年時代の敦也の心が、手に取るようにわかる気がした。

現在の敦也はフリーター生活をし、過去をひたすら隠そうとする。この敦也の行動と、他人に対する必要以上の警戒心は、作者の作品によく登場するキレやすい若者の典型のように思えた。同情されるのを嫌がり、他人との間に壁を作る。敦也が意識することなく、周りにふりまく悪意というのは、今までの悲惨な少年時代の記憶があったからだろう。週刊誌の記者に追いかけられ、被害者でありながら好奇の目にさらされる。加害者の人権は必要以上に守られるが、被害者が守られないというのは共感できる部分だ。

沼田が父親を殺した理由というのが最後に語られている。精神的に大人になった敦也だったが、そこでの敦也の問いかけでは、はっきりとした答えはだされていない。結局読者は想像するしかなく、恐らくこうだろうという空想でしかない。さらには、ラストに敦也が一人の女性を選ぶのだが、それが誰なのかというのも明確にされていない。なんとなく感じることはできるが、あえてぼかしているのだろう。ラストは読者の都合の良いように考えてくださいということだろうか。

ラストまで読むことで、やっと物語の全体とタイトルが理解できた気がした。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp