震える岩-霊験お初捕物控 宮部みゆき


2009.5.7  摩訶不思議な力を持つ女 【震える岩-霊験お初捕物控】

                     
■ヒトコト感想
かまいたちでお初の物語に対して事前知識を入れていただけに、すんなりと物語に入り込むことができた。本作はいくつかの短編が連なり一つの大きな物語となっている。特殊な力を持つお初がその力を自覚し、事件の解決に役立てようとする。右京之介のキャラクターがいかにも頼りなさげな優男で、お初が男勝りな強気な女となる。赤穂浪士討ち入りを物語の核として、奇妙な事件が起こっていく。ミステリアスな部分は結末間近まで読者の興味をしっかりと引き付けるだろう。ただ、事件の根本的原因が判明すると、なんだか予想していたよりもシンプルだという感想をもった。より複雑で、何かありえないような因縁が絡んでいるのかと思っていたが、すっきりとしたストーリーとなっている。

■ストーリー

ふつうの人間にはない不思議な力を持つ「姉妹屋」のお初。南町奉行の根岸肥前守に命じられた優男(やさおとこ)の古沢右京之介と、深川で騒ぎとなった「死人憑き」を調べ始める。謎を追うお初たちの前に100年前に起きた赤穂浪士討ち入りが……。

■感想
お初の不思議な能力で事件を解決する。ともすると京極堂シリーズに似ているとも感じられる本作。しかし、本作は不思議なものは不思議なまま、そして、不思議な能力を持つお初が、事件を解決に導く。赤穂浪士討ち入りをキーとして、事件と様々な繋がりがあきらかになっていくくだりは、読んでいてとてもドキドキした。いったいどんな因縁があり、このような事件が起きるのか。「死人憑き」に何か大きな理由があるのだろうか。そして、殺された子供たちには、どんな繋がりがあるのだろうか…。事件に対する興味はお初と同じほど読者をひきつけるだろう。

お初と共に行動する謎の侍、右京之介。この右京之介が何か特殊な力をもっているかといえば…。今で言うところの小難しい学者のような存在だろうか。もしかしたら、現代の探偵ものでいうところの、摩訶不思議担当のお初と、理論的部分を担当する右京之介といったような感じだろうか。それにしては、ちょっと右京之介が目立たない。何か大きな秘密があるように匂わせながら、結局右京之介にはとりたてて魅力的な特徴はなかった。できるならば、剣術の天才などがあれば、よかったのかもしれないが、それはそれでありきたりすぎるのだろうか。

事件と赤穂浪士討ち入りの関係が本作のすべてだ。そこに至るまで、様々な事件や出来事があり、読者としても興味をそそられる部分だ。いったいどれほどの因縁や恨みがあってこのような事件が起きるのだろうか。歴史的事実に隠蔽された、何か大きな裏が隠されているのだろうか。お初が一つの事件を解決するたびに、その思いは強まった。しかし、ある程度「死人憑き」の原因が判明してくると、そのテンションは急速にしぼんでしまう。何か特殊なものを期待していたのだが、思いのほか、普通な因縁だけに、ちょっと事件のインパクトと比べると尻すぼみのような印象はぬぐいきれなかった。

お初シリーズとしての面白さは感じることができるが、それだけだ。



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