かまいたち 宮部みゆき


2009.4.28  デビュー前の作品も読める 【かまいたち】

                     
■ヒトコト感想
お初のシリーズは、さすがにデビュー前の作品に手を加えただけあって、ちょっと趣が異なる。かなり漫画チックというか、アニメ的なストーリーのように感じてしまった。短編集ということで、一つ一つが読みやすく、頭の中にすんなりと入り込んでくるのはよかった。現代を舞台にしていない作品の長編だったら辛かったかもしれない。特に表題作である「かまいたち」は不思議な出来事の犯人が誰であるか、二転三転しながらも、最後はすっきりとさせてくれる。やはりお初のシリーズと比べるとしっかり練りこまれているような気がする。「かまいたち」以外にもワクワクする作品はあるが、どうしても荒唐無稽に感じられて仕方がなかった。それはそれでよいのかもしれないが、作者のレベルの変化がよくわかるという貴重な作品かもしれない。

■ストーリー

夜な夜な出現し、無作為に人を切り捨てる正体不明の辻斬り「かまいたち」。ある晩、町娘のおようは偶然辻斬りの現場を目撃してしまうが… 

■感想
正体不明のかまいたち。何か裏がありそうで、それでいて、トリックがありそうな。明らかにミスリードする展開は、わかっていながらも楽しんで読むことができた。こいつは絶対にかまいたちではないと思いながらも、物語は進んでいく。短編でありながらも、物語の世界観には深いものを感じてしまった。様々な登場人物を少ないページ数でしっかりと纏め上げ、最後の最後にはちょっとしたオチまでつけている。やはり表題になるだけあって、本作では一番読み応えのある作品が「かまいたち」かもしれない。

その他には、作者がデビュー前に書いたというお初シリーズ。このシリーズは別の作品で纏められているが、その原点というべき作品なのだろう。若干登場人物に変化があるが、基本は変わっていない。謎の力を持つことになったお初とそれを取り巻く様々な人々と事件。ちょっとお初の能力を表現するために超常現象に頼りすぎているような気がしてならなかった。裏に何か原因となる因縁めいたものがあるのだろうが、それがそこまでしっかりと主張されていない。そのため結局超常現象が元となった事件をお初が調べ、周りの人に助けられながら解決するという流れだ。漫画などにはなりやすい作品なのかもしれない。

「かまいたち」のインパクトと後味のよさを考えると、お初シリーズはちょっと未熟なように感じた。しかし、それはつまり、デビュー前の作品とデビュー後、それなりに実績を積んだ作品の違いということだろう。違いと共に、作品の質もかなり変化が見て取れる。作者のレベルアップ具合をはっきりと感じ取れるのと、選んだ題材が似たようなものであっても、こうも違った印象を与えるものかという、驚きもあった。短編ということで、「かまいたち」以外はそれほどインパクトを与えるものではない。しかし、今後読んでいくお初シリーズの原点を読めたというのは貴重なことなのだろう。

作者の短編を作る力には毎回驚かされる。



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