エンド・ゲーム 恩田陸


2010.9.23  得体の知れない者との対決 【エンド・ゲーム】

                     
■ヒトコト感想
光の帝国で気になっていた短編物語の続編。得体の知れない者との戦い。「裏返す」だとか「裏返される」だとか、さらには「洗濯」まで登場し、どういったことなのかはっきりと示されないまま、物語は進んでいく。強力な力を持っていたはずの父親が「裏返された」までが短編であり、その後、娘と母親はどうなっていくのかという物語。巨大な悪をにおわせつつも、不思議な力を持った母娘がどうなっていくのか。不思議な「洗濯屋」も登場し、はっきりとした敵が見えないまま進んでいくことになる。この不思議な世界の中で、見えない敵との戦いというのはそそられてしまう。村上春樹的な雰囲気も持ち合わせながら、結末ではしっかりとした答えを示してくれる。光の帝国を先に読んでいれば、かならず楽しめることだろう。

■ストーリー

『あれ』と呼んでいる謎の存在と闘い続けてきた拝島時子。『裏返さ』なければ、『裏返され』てしまう。『遠目』『つむじ足』など特殊な能力をもつ常野一族の中でも最強といわれた父は、遠い昔に失踪した。そして今、母が倒れた。ひとり残された時子は、絶縁していた一族と接触する。親切な言葉をかける老婦人は味方なのか?『洗濯屋』と呼ばれる男の正体は?

■感想
「あれ」という謎の存在。人の精神に染み付く悪のような描写と、はっきりとどんな害悪があるか描かれないまま物語は進んでいく。「裏返す」だとか「裏返される」という行為にどういった意味があるのか。そして、強い力を持っていたはずの父親が何者かに裏返されたのはなぜなのか。巨大な敵をにおわせながら、強い力を受け継いだ時子と、突然倒れまったく目を覚まさない母親がどのように変わっていくのか。特殊な力を持った常野一族の暗部に切り込むような作品だ。常野に相対するほどの力を持った組織など存在するのか。今までのシリーズにはない対決色の強い作品となっている。

「裏返す」や「あれ」の存在というのが、どちらかというと精神世界を映像化したものなので、必然的に物語りは精神世界の話となる。対決にしても、その人物のトラウマとも言うべき出来事が大きなきっかけとなっていく。最初は意味のわからなかった「洗濯屋」や風呂敷をもった謎の老婆など、敵か味方かはっきりしないまま、時子の周りには様々な人物たちが登場してくる。特殊な力を持つことにどういった意味があるのか。そして、常野一族の秘密と、突然失踪した父親の秘密とは…。謎が謎をよび、先が気になりページをめくる手を緩めることはできない。

敵か味方か。鍵となる火浦という洗濯屋によって物語はある結末へと導かれる。精神世界の物語として曖昧なまま終わるのではなく、しっかりと答えは描かれている。ゲームの終わりというタイトルどおり、それなりに納得できる終わり方だ。常野一族のすべての秘密が明らかになったわけではなく、実際に「裏返す」というのがどういうことなのかよくわからない。しかし、父親が失踪した理由や、母親が眠ったまま目を覚まさなかった理由。そして、時子の能力の理由など、様々な疑問にしっかりと答えているのはすばらしい。なおかつ、変な終わり方ではないのも好感がもてる。

シリーズとしてすばらしい出来栄えだ。



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