ダイスをころがせ! 下 真保祐一


2011.1.20  文化祭のような手作り選挙戦 【ダイスをころがせ! 下】

                     
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■ヒトコト感想

上巻で感じた金のない選挙の辛さというのは、本作でも継続されている。選挙戦と共に不透明な土地売買を解明することが本作のもう一つの目的となっている。選挙では他候補から激しい妨害や政策についての議論が交わされるのかと思いきや、本作ではそのあたりはサラリと流されている。あくまでも選挙を戦うということがどういうことなのか。立候補するために必要な手続きや、配るビラの枚数とそれにつける承認シールなど、一般人が絶対に知ることのない選挙の細かなしきたりを描いている。そのため、ドラマチックな選挙戦というよりは、手作りで選挙に臨むのがどういうことかというのがよくわかる。何をやるにも人と金が必要なのだ。

■ストーリー

駒井健一郎は、達彦とともに天知家の過去との対決を迫られる。一方、地元政財界の絡んだ不透明な土地売買が、彼の社を辞めた原因と繋がっていたことが判る。事件はなおも続く、だが選挙は待ってくれない。遂に、十二日間の決戦が始まった!ポスター、選挙カー。何事につけとんでゆく金に悩みつつも、俺たちは手づくりの選挙を貫く―。

■感想
結局、天知の祖父の不正疑惑はどうなったのか。そのあたりは曖昧なまま終わっている。何かしら選挙戦に大きなインパクトを与えるものと思っていたが、驚くほどすんなりと収束している。それよりも不透明な土地売買に対してのみ解明しようとしているが、選挙戦にそれほど大きな影響を与えるようには思えなかった。正体不明の妨害や、上巻で起こった健一郎が襲われた事件についても、それほどはっきりとした理由が示されていない。途中で方向転換したのだろうか、疑惑が中途半端に感じる部分が多々ある。

そうはいっても、選挙戦の大変さというのは十分に伝わってくる。何をするにも人手が必要で、期限がきられており、ボランティアの人数も決まっている。すべては金があり人がある陣営が圧倒的に有利なのが選挙なのだろう。選挙道具専門のレンタル会社があるということに驚き、選挙活動用としてはがきが何万枚も配られるというのも驚いた。さらには、街頭で配るビラについても選挙管理委員から承認された証明のシールを貼らなければならない。すべてが人手がかかる作業だ。

熱い選挙戦も終盤になり、様々な妨害の理由も一部明らかとなる。ただ、トータルで考えると金がないということ以外、決定的に選挙戦でピンチに陥るということがないように感じられた。上巻と比べると、それなりに紆余曲折があったにせよ、下巻はわりと予定通り進んでいるように思われた。選挙戦での苦しみが大きければ大きいほど目的を達成したときの喜びも大きいが、本作はその苦しみの段階で、金の部分以外では特別ないような気がした。

選挙という舞台をかりた、文化祭に挑む学生たちのような印象を感じた。




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