ダイスをころがせ! 上 真保祐一


2010.12.13  選挙には驚くほど金がかかる 【ダイスをころがせ! 上】

                     
■ヒトコト感想
なんの後ろだてもない男が衆院選に立候補し、その秘書となる男の物語。選挙に立候補するには金とコネが必要で、さらには利害関係者たちとの調整が必須となる。なんだかとんでもなく無謀なことに挑戦しているように思い、勝算があるとは思えない負け戦でしかない。物語的には情熱的な選挙になるのだろう。当選にはつきものの家族の協力や、ボランティアなど、普通に生活していれば気付かない部分を本作によって知らされた気がした。ただ、選挙に立候補する動機についてはほとんど共感はできず、重要さもそれほど感じない。無党派での選挙というのが金の面だけでなく、得体のしれない妨害などで物語が盛り上がる要素はてんこ盛りだ。下巻では熱い選挙戦が繰り広げられることだろう。

■ストーリー

職を失い妻子とは現在別居中。駒井健一郎三十四歳はどん底にいた。ある日、高校時代のライバル・天知達彦が現れ、驚くべきことを口にする。「次の衆院選に立候補する。共に戦ってくれ」。コネや金は一切なし。持てるものは理想のみ。第二の人生を拓くため、彼らは完全無党派で選挙戦に挑む。

■感想
失業中の男が、無謀な選挙に挑戦する男の秘書となる。まず選挙を始めるためには様々な準備と金がかかるということが強烈にアピールされている。何をするにも金。事務所を借りるにも、ポスターを作るにも、ビラや街頭演説をするにも金が必要だ。資金が次々と目減りしていく場面は、選挙に対して恐ろしさばかりを感じた。これだけ金をかけたとしても、当選する保証はない。にもかかわらず挑戦しようとする候補者たちというのは強い志を持っているか、裏から金が流れてくるかのどちらかだろう。

選挙というのは家族を犠牲にするものなのだろう。家族以外にもその人の人生を根本から崩しかねない。それは秘書も同じだろう。本作では高校時代のライバルを助けるため秘書となるのだが、人生をかけるにしては、国をどのようにしていくかという理念についてはあまり触れられていないような気がした。物語的に政策で争うのではなく、あくまで情報開示と不明確な地域開発への警告、そして自分の祖父が不正を働いていたかを調べるというのが元にある。天知の政治家としての資質というよりも、周辺がどのようにして盛り上げていくか。そこが本作のメインだ。

金のない選挙での四苦八苦と、謎の妨害者の存在。無所属の候補者を襲う、目に見えない恐怖。巨大政党の力というのはいたるところにある。選挙への無関心をいさめる本作ではあるが、巨大政党が優遇されている現状を認識する必要もあるのだろう。圧倒的不利な状況から、手作りの選挙活動で大波乱を起こそうとする。物語的な盛り上がりどころは、おそらく下巻に集約されているのだろう。本作で準備された様々な伏線がどのように活きてくるのか。謎の妨害者とは…。そして、駒井の家族はどのような結末を迎えるのか。政治モノ特有の熱さを感じる作品だ。

金のない選挙戦。逆転勝利を目指すには何か大きな出来事がないと苦しいだろう。

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