ブレイブ・ストーリー 下 宮部みゆき


2010.1.25  最後までドライな冒険物語だ 【ブレイブ・ストーリー 下】

                     
■ヒトコト感想
目指すべき場所がはっきりとし、ロールプレイングゲームで言うところのラスボスとの対決が迫る?のかと思いきや、ゲームとはまったく違う、複雑な終わり方をする本作。中巻からの雰囲気で、ありきたりな結末を迎えるとは思わなかったが、かなり予想外だ。冒険物語にはラスボスがつきもの。諸悪の根源を倒し、死んだ仲間たちが生き返り、すべてが良い方向へと進み、めでたしめでたしとなるものと思っていた。本作は厳しい運命をはっきりと示し、都合の良い終わり方はしていない。冒険を終え、ワタルがたくましく成長したというのは、ありきたりだが、現実が何も変わらないというのは意外だった。最後まで、明るく楽しい冒険物語とは決して言えない作品だった。

■ストーリー

天空を翔るファイアドラゴン、ジョゾの背に乗って北の帝国に向かうワタルたち。目指すは皇都ソレブリアにそびえる運命の塔。が、うちつづく闘いに傷つき、命を失う仲間もあらわれ…。ミツルとの死闘を制し、ワタルは女神と出会うことができるのか?現世の幸福と幻界の未来。最後に選ぶべきワタルのほんとうの願いとは―。

■感想
ワタルとミツル。女神と出会い、現世の幸せを取り戻すために辛い旅を続ける二人。圧倒的に有利なミツルがどうなるのか。ワタルとミツルのどちらかが人柱として”半身”となる。普通の冒険物語だと、結末はどうであれ、幼い子供が人柱になることなど絶対にない。最後には辛い旅を終え、すべてを水に流すように、現世の幸せが待っている。死んでいった仲間たちも、女神の力で生き返り…、なんていう超ご都合主義を予想していた。しかし、本作は恐ろしいまでにドライだ。冒険物語としては、ある意味救いのない終わり方かもしれない。

ファイアドラゴンのジョゾや、ネ族のミーナ、そして水人のキ・キーマ。ワタルの仲間たちは最後の戦いで激しく傷つきながらも希望を捨てない。ワタルが女神に会うことだけを考え協力する。その際には、多少の犠牲はつきもので、物語はシリアスな展開へと移り変わっていく。もともとワタルが現世から幻界へ来た理由というのが強烈な理由なため、冒険を終えたワタルがどうなるのか、そこは気になる部分だった。安易に皆が幸せになりましたという流れにならなかったのは良いが、何も解決していないのには、驚いた。

ワタルが冒険を終え、強くたくましくなった。ただ、それが結末として描かれても、現世でのワタルの環境は何の変化もない。結局、みんなが幸せになる万能な答えなどないということなのだろう。幻界も幸せになり、現世のワタルも幸せになる。そんな都合の良い終わり方はない。結末がファンタジーな展開ではなく、ワタルの心が変わるという、リアルではあるが、夢の無い終わり方となっている。映画も同じ結末であれば、映画を見た子供は現実の厳しさを知るのだろう。かなり大人向けの冒険物語をそのまま最後まで貫いている。

上巻の印象が最後まで崩れることはなかった。



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