2010.6.30 久しぶりの村上春樹作品は… 【1Q84 BOOK1】
■ヒトコト感想
久しぶりの村上春樹作品。いつもどおり意味不明で明確な結末のない物語なのかどうか。読んだ感覚としては、世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランドに近いかもしれない。天吾と青豆という二つのパートから成り立ち。それぞれがまったく別の物語のようで、少しづつ繋がりが見えてくる。オウム真理教を連想させるような謎の宗教団体や、リトルピープルという得体の知れない者たち。目には見えないが、言葉だけが一人歩きし、巨大な力を連想させる出来事も起きる。現代とは少しずれた世界で、天吾と青豆の世界がどの段階でぴったりと一致するのか。謎の宗教団体を牽引するリーダーの正体は?興味深い伏線は多数存在するが、それらをしっかりと回収してくれるのか。それだけが気がかりだ。
■ストーリー
「こうであったかもしれない」過去が、その暗い鏡に浮かび上がらせるのは、「そうではなかったかもしれない」現在の姿だ。心から一歩も外に出ないものごとは、この世界にはない。心から外に出ないものごとは、そこに別の世界を作り上げていく。
■感想
作者の作品は読みやすい。小難しい比喩や知的でありながら、どこかゆるく感じる言葉など村上春樹風味は十分に詰まっている。サラリと読めるのと反比例するように内容はディープで不可解な方向へと動いていく。月が二つある世界。ある時をさかいに、現実と少しずれた別世界へと入り込む。この原因や理由のはっきりしない不思議な世界は作者の得意とするところだろう。1984年という過去を題材にし、そのとき実際に起こった事件を登場させながら、架空の事件を挿入する。そこは1Q84だという別世界となり、どんな不思議なことが起こったとしても、別世界だからと許されてしまう雰囲気を作っている。
オウム真理教を彷彿とさせる宗教団体を登場させ、裏でうごめく大きな力の脅威も描いている。巨大な力そのものの実体が見えてこないことで、読者は得体の知れない恐怖と、危機感をもつ。それらに対抗しようとする天吾や青豆の行く末を案じたりもする。”ふかえり”が語るなぞのリトルピープル。ジワジワと周りを囲まれるように、目に見えない力が二人に影響をおよぼしてくる。青豆のハードボイルド的世界と、天吾の”ふかえり”をめぐる世界。鍵になるのは謎の宗教団体に違いないが、その正体が最後にしっかりと明らかになるのかだけが心配だ。
このシリーズは何かしら結論というものを出してくれるのだろうか。不思議な雰囲気と、読者をひきつける魅力ある登場人物、そして実在の事件を連想させるような事件。巨大な力に対抗しようとする登場人物たちを読みながら、不思議な世界へと没頭していく。あるタイミングで世界にずれが生じたとしたら、それが戻るタイミングがどこかで登場するはずだ。天吾と青豆の世界がぴったりと繋がり、世界が元通りに戻ることがあるのか。それとも、謎の力に追い詰められるのか。ストーリーの先行きも気になるところだが、しっかりとした結論がでるのか、まずそこに注目したい。
作者の特徴的な文体と、魅力的な世界観は十分楽しめることだろう。、
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