2006.6.27 不思議な冒険と心理的世界 【世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド 上】
■ヒトコト感想
村上春樹の作品にしては非常に分かりやすかった。"ハードボイルド・ワンダーランド"、"世界の終わり"という二つの世界が登場しこの二つがどのように繋がっているのかまだ定かではない。しかし何かしらの影響をお互いに及ぼしているようだ。SFというほど科学的ではないのだが、何か無性に理系の香りが作品中をしめている。人の脳を触媒とした強固な暗号化技術など、読んでいると頭がこんがらがりそうなのだが、それもこの作品の雰囲気にマッチするから不思議だ。二つの世界がリンクするときに何か全ての秘密が暴かれそうな気がする。
■ストーリー
高い壁に囲まれ、外界との接触がまるでない街で、そこに住む一角獣たちの頭骨から夢を読んで暮らす〈僕〉の物語、〔世界の終り〕。老科学者により意識の核に或る思考回路を組み込まれた〈私〉が、その回路に隠された秘密を巡って活躍する〔ハードボイルド・ワンダーランド〕。静寂な幻想世界と波瀾万丈の冒険活劇の二つの物語が同時進行して織りなす。
■感想
先見の明があるのか、今の情報社会を暗示するように情報を操作する計算士や記述士が登場する”ハードボイルド・ワンダーランド”の世界。時系列で順序正しく語られているのでそのまますらすらと読み進めることができる。絶対に誰にも破られない暗号化技術として人の脳を利用して、思い出をキーにする。精神的な話になるかと思いきや、思いっきり理系の雰囲気がただよっており、森博嗣の作品にも近いような印象を受けた。
”世界の終わり”の世界では夢読みという不思議な職業が登場し、頭骨から夢を読み取る。また影を体から切り離されたりとどこかメルヘンな印象を受ける。頭の中に思い浮かべるのはかわいらしい影がぴょこぴょこと動きまわり、助けてくれと話掛けてくる。影を取られた人間は心も失ってしまう。そして影は冬になれば力が弱まる。このあたりはどこかの童話にでもでてきそうなほどよくできている話だ。そしてその雰囲気からかけ離れたような冷たく辛い雰囲気も全体からかもし出している。
”ハードボイルド・ワンダーランド”の世界と”世界の終わり”の世界。この二つがいったいどういった関係があるのか、また登場人物達はなにかつながりがあるのだろうか。この時点ではほとんど接点はないのだが、登場するアイテムに多少かぶるものがある。ハードボイルド・ワンダーランドの世界で計算士が狙われる理由はなんなのか、そして自分の頭の中はどうなってしまったのか、数々の謎を投げかけながらそれらが下巻で解明されることを楽しみに読み進めることができた。
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