雨天炎天 


2008.1.27 一風変わった旅モノ 【雨天炎天】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
旅モノと言えば、深夜特急ガンジス河でバタフライを思い浮かべるが、こちらの方が元祖なんだろう。ただ、同じ旅をテーマにした作品にしては、随分趣きが異なっている。前者ができるだけ安く、そして、人生とはなんたるかを考えるような、自分探しの旅だとすれば、本作はそれなりの年齢に達したいい大人が、単純に自分の興味で未開の地へ足を踏み入れるといったところだろうか。まず、貧乏旅行でないということでまったく別物となっている。そして、作者独特の落ち着いたというか、のんびりとした文体が、旅での深刻な出来事さえ、なんでもないことのように語っている。作者が英語に堪能ということも大きな違いなのだろう。

■ストーリー

「女」と名のつくものはたとえ動物であろうと入れない、ギリシャ正教の聖地アトス。険しい山道にも、厳しい天候にも、粗食にも負けず、アトスの山中を修道院から修道院へひたすら歩くギリシャ編。一転、若葉マークの四駆を駆って、ボスフォラス海峡を抜け、兵隊と羊と埃がいっぱいのトルコ一周の旅へ―。雨に降られ太陽に焙られ埃にまみれつつ、タフでハードな冒険の旅は続く。

■感想
ギリシャの正教の聖地アトス。まず、そう言われてもまったくピンとこない。ギリシャ正教というものがなんなのかよくわからず、さらには聖地アトスなどは、聞いたことすらない。そんな場所を訪れる作者であるが、得体の知れない場所に行くというのに、不安や緊張感など微塵も感じさせない独特の雰囲気が文章から伝わってくる。もしかしたら、実際は相当な苦労と困難の連続な旅だったのかもしれない。しかし、それを感じさせず、さもちょっと近所の山奥へ行ってきましたよというような流れになっている。もちろん、ひどい食べ物や、環境の劣悪さを十分に感じることができるが、大げさなほど環境のひどさをアピールしていた他の作品とはちょっと違うという印象をもった。

ギリシャやトルコ。特にトルコはクルド人関係で、かなり危険な土地のはずだが、緊迫感がどうも足りない。作者自身が危険な目にあっているのに、まるでテレビの観衆のように、他人を心配しているように感じてしまった。今の時代とはまた違うのかもしれないが、クルド人自治区など、とてもじゃないが、足を踏み入れることすらできないことを平気でやっているのがすごい。それが旅の醍醐味だと言われると、何も言えないが、他の作品で感じた、その場所に行ってみたという思いはわいてこなかった。

旅の中で出会う人々との心温まる交流。もちろん、それらもふんだんに盛り込まれているが、そこまで温かみを感じるほど、感動的な文章とはなっていない。作者独特のシニカルな語り口が、本作の中での感動秘話よりも、憎たらしい相手とのやりとりの方が読者に印象づかせるような気がした。といっても、だまされて最悪な目にあったというようなことではなく、相手は悪気がないが、習慣の違いから作者がちょっとめんどくさく感じたという程度なものだが。

訪れる土地が相当レベルが高く、旅の初心者にはかなり厳しい土地だというのを感じさせない文章だ。ある意味、本作を読んで、気軽な気持ちで同じ場所を旅するととんでもないことになることだろう。



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