月に繭、地には果実 中 


2008.3.14 決して勧善懲悪ではない 【月に繭、地には果実 中】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
序章的扱いである前作と比べ、本作はより政治色の強い作品となっている。組織内部での軋轢そして、裏切り。今までのガンダムでも描かれていた部分ではあるが、活字では、よりその部分が強調されているように感じてしまう。ディアナとキエル、二人の入れ替わりや、ターンAの底知れない力。単純なロボットアニメの枠を超えて、物語の濃密な世界観を感じることができる。そう感じるのは、おそらくすべての設定にきっちりとした理由があり、どれ一つとっても、ご都合主義的に付け加えられたものがないからだろう。ガンダムの魅力の一つである戦闘シーンはさすがに臨場感にかける部分があるが(それはもちろんアニメと比べたらの話だ)それ以外の部分でしっかりと補っている。

■ストーリー

地球人としての生活に安息を覚えるロランをよそに、地球帰還作戦は決行された。抵抗する地球人だが、宇宙的兵器を操る月の民の戦力には遠く及ばない。しかし地球人が過去の遺産=“ターンA”を発掘したことから、戦力は均衡。ロランは“ターンA”に乗り込み、月の民と戦うことに。

■感想
単純な勧善懲悪ものでないのはガンダムシリーズの特徴だろう。中でも本作はよりその印象が強い。どちらの立場も理解でき、登場人物の発言に対しても、違和感を感じることはない。私利私欲に走るとうのは存在せず、すべてが根本的には平和を望んでいるということが感じられる。頭の中では映像化して想像するのだが、この人物はファーストガンダムでいうとシャーのような役柄であり、この人物はもしかしたらブライト的な扱いなのかと考えてしまう。それは裏切られもするが、楽しい部分でもある。

そもそも設定からしてロマンチックだ。二千年も前に月に移住した人々が地球に帰ってくる。地球人の対抗手段としては地中に埋まった化石的なモビルスーツのみ。この戦力差はどうしようもないのではないかと思えるが、お待ちかねのターンAガンダムが奇跡的な力を発揮する。ファーストガンダムファンとしては、もう少しいろいろなモビルスーツが登場しても良いのではないかと思えたが、それは小説三部作としてはこの程度が限界なのだろう。

アニメを見ていない者としては、本作を読むことでアニメにも興味がわいてくる。ストーリーの違いやキャラクターの違いを楽しむのもあるが、自分の頭の中に描いていた戦闘シーンが実際にどのようにして描かれるのか、それが一番のたのしみだ。

本作の後半では、クライマックスへ続くという雰囲気がヒシヒシと伝わってくる。ターンAの強力なライバル的モビルスーツも登場し、最終決戦にむけての準備は万全なのだろう。この壮大な物語をどのようにして決着をつけるのか、すべてを壊すというような結末にはなってほしくないとひそかに願っている。

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