獅子の門 群狼編 


2007.12.4 発展途上な主人公候補たち 【獅子の門 群狼編】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
いったい何が魅力なのだろうか。圧倒的な強さをもつ中国拳法の達人の存在であったり、ステレオタイプのやくざがいちゃもんをつけてきて、それをあっさりと倒す姿なのだろうか。完全で完成された強さをもつ登場人物よりも、発展途上の主人公の方が興味をそそられる。その意味では本作は5人もの主人公候補が登場し、それぞれ魅力的な個性をはっきしている。まだ、誰もがひよっこ状態なのだが、強くなりそうな伏線は十分に張られている。まだ、序章である本作では、宿命のライバル的な者はでてきていないが、それも魅力の一つとなることだろう。

■ストーリー

三十代半ば、ひょろりとした体躯、陳式太極拳の極意を持つ中国拳法の武道家・羽柴彦六は、各地を放浪中、五人の若者とかかわる羽目になった。芥菊千代、竹智完、志村礼二、加倉文平、室戸武志―それぞれ強烈な個性を放ち、彦六の武技に魅せられた男たちの生きざまと彼らを結ぶ運命の糸。そして明かされる彦六の放浪の秘密。

■感想
中国拳法の達人が主人公なのだろうか。ただ、主人公にしては、そのキャラクター付けが弱い。わかるのは圧倒的な強さを持ち合わせているということだけだ。それにくらべて、芥菊千代や竹智完などは、個性を存分にはっきしている。特に芥菊千代は、朴訥なまでに努力を重ね、とんでもない強さにまで成長しそうな雰囲気がある。主人公にはもってこいの人物かもしれない。そして、その他の登場人物たちも、未完成ながら、心であったり、肉体であったり、どこか常人を逸脱したものを持っている。

餓狼伝でこの手の小説にはまったのだが、パターンはある程度決まりきっている。それでも読んでしまう。それは何故だろうか。おそらく、キャラクター描写が秀逸で、一つのキャラクターに
生命を吹き込むエピソードが優れているからだろう。それはつまり、そのキャラクターがどれほど強く、そして、どんな人生を歩んできたのか。対決する対戦相手はどんな人物なのか。すべてがわかった上での戦い。どちらも思い入れが深く、読者からすると、それは途端に夢の戦へと昇華されていく。

まだ、序章である本作では、それぞれの登場人物たちのエピローグともいうべき物語が描かれている。これからどの程度強くなり、この五人の中では誰が一番強いのだろうか。そして、底を見せない羽柴彦六は、いったいどこまで強いのだろうか。難解な文章はなく、すらすらと読める文体で、どんどんと物語りは進んでいく。このスピードに負けないほど、戦いの描写もスピーディーにそして、圧倒的な臨場感で描かれている。

悲しいことは本シリーズが、まだ完結していないということだ。それは、つまり、最後まで読み進めると、次巻を待つ間、もやもやとした感情を持ち続けなければならないということだ。

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