ランゲルハンス島の午後 


2008.5.23 風景画的な挿絵に違和感 【ランゲルハンス島の午後】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
タイトルは最後のエッセイのタイトルをそのまま使ったようだ。内容的には村上朝日堂を踏襲するように、なんてことない日常を独特なゆるい文体でエッセイとして描いている。そして、そこにはいつもの村上朝日堂と同じくゆるい挿絵が鎮座している。ただ、この挿絵がへたうまな人物の絵ではなく、どちらかと言えば風景メインで書かれているため、明らかに作品から受ける印象も変わってくる。ゆるい絵の方針が変わるだけで、こうも作品に変化が起きるのか。のんびりとしたほのぼの感は増加したのかもしれないが、面白さはなんとなくだが、半減しているような気がする。

■ストーリー

まるで心がゆるんで溶けてしまいそうなくらい気持のよい、1961年の春の日の午後、川岸の芝生に寝ころんで空を眺めていた。川の底の柔らかな砂地を撫でるように流れていく水音をききながら、僕はそっと手をのばして、あの神秘的なランゲルハンス島の岸辺にふれた―。夢あふれるカラフルなイラストと、その隣に気持よさそうに寄り添うハートウォーミングなエッセイでつづる25編。

■感想
緩さとこれといったテーマの無さで言えば、今までの村上朝日堂と同様だろう。ただ、連載されていた雑誌の雰囲気と、存在感抜群に登場する挿絵。この影響は無視できない。特に挿絵は、作品全体の雰囲気を大きく変えている。全体的に、風景メインで描かれた挿絵。決して緻密な絵を描く作者ではないだけに、風景を描くとその適当さというか、小学生が書いた絵というような雰囲気がより強調されてしまう。これが人物であれば、絶妙な味となって返ってくるのだが、それがない。

ちょっとした日常で疑問に思ったことや、感じたことをそのまま作者の言葉でエッセイとして書き綴られた本作。正直言うと、作者のファン以外にはお勧めできない。一つのエッセイに対して、2ページ半の挿絵があり、文章としてのボリュームも少ない。さらには収録作品も少ないので、あっという間に読めてしまう。それが良いと思う人もいるかもしれない。のんびりとしたエッセイなだけに、眉間にしわをよせて読む必要はないが、それでも、あまりにも軽すぎるように感じてしまった。

日常を描いているだけに、作者が普段どんな生活をしているのかがなんとなくだがわかってくる。小説家という仕事がらか、もしくは作者の性格的なものかわからないが、特別面白い日常を送っているとは思えない。ごくごく平凡に、慎ましやかに生活しているように感じてしまう。それに好感をもつのか、それともつまらない人生だと感じるかは人それぞれだろう。なんとなくだが、定年を迎えた元サラリーマンが送る、日々の暮らしのような気がしてならなかった。

挿絵の効果は思いのほか大きいのだと思い知らされた。どうせなら、へたうまで味のある人物の絵を見たかった。



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