2008.1.11 原作に負けない恐怖感 【魍魎の匣】
評価:3
■ヒトコト感想
一番好きな京極作品がとうとう映画化された。前作はかなり期待はずれに終わったが、今回はビジュアル的に映画化に向いている作品なのでかなり期待していた。期待度にもよるが、自分の中ではかなり満足している。独特な恐怖感は十分表現されているし、余計なウンチクを排除し、京極作品に不慣れな人にも受け入れやすいようになっている。悪く言えば一般化しすぎているが、このくらいが丁度いいのだろう。観衆を飽きさせない演出や、原作にはない、後半での盛り上げどころなど、アクションシーンを増やしたのも、一般受けを狙ってのことだろう。コアな原作ファンからするといろいろと言いたいこともあるだろうが、まずは一般受けする必要がある。その意味では大成功だと思う。
■ストーリー
戦後間もなくの東京。元・女優、陽子の娘が行方不明になり、探偵・榎木津が捜査を担当していた。一方、作家・関口と記者・敦子は、不幸を匣(はこ)に封じ込める謎の教団の陰謀を掴むべく調査していた。更に巨大なはこ型の建物の謎を追う刑事・木場。全ての事件は、複雑に絡まり、一つに繋がっていた。それぞれの謎を解くため、彼らは古書店・京極堂の店主、中尊寺のもとに集まった。
■感想
バラバラ殺人や、箱にこだわる男など、小説では表現しきれない部分を本作は映像化することで、具体的に視覚から恐怖感をあおっている。中盤から後半にかけての気持ち悪さや、なんともいえない怪しい雰囲気は秀逸だろう。時系列に沿ってだらだらと物語を進めないのも、観衆の集中力を持続させる効果がある。ただ、原作が膨大なページ数を割いて物語を構築しているので、2時間という短時間ですべてを網羅するのは不可能だったのだろう。ところどころ、省略されており、原作を未読な場合は、多少混乱するかもしれない。
前作はまったくといっていいほど、時代的な雰囲気がでていなかった。ただ、箱庭的にセットの中を行ったりきたりするだけだ。それに比べると、本作は舞台が格段に広がり、町並みやその他を見ても、力の入れ具合がまったく違う。ここまでしっかりとその時代の雰囲気をだされると、それだけで見入ってしまう。そして、その効果が後半にいきてくる。特に圧巻なのは、人を生かすために、研究所全体を使うという発想と、それを実際にビジュアルとして表現したところだ。これくらい大げさな方がインパクトがある。
奇妙で怪しく、そして不気味である。耐性がない人は、もしかしたら映像を見て気持ち悪くなるかもしれない。元がミステリーなだけに、結局は犯人探しと、そのトリックが醍醐味となるのだが、強烈な後味の悪さは残る。やりきれない気持ちと、恐ろしさ。これは原作のときから感じていたことだが、それすらもしっかりと踏襲している。ラストの場面で、そっとつぶやく少女の場面では、原作を知っていても、ぞっとしてしまう。あのシーンとした場面に突然現れ、そして呟く。耳が痛くなるほどの静寂の中で、心に響くような声だった。
いろいろと賛否両論あるかもしれない。ただ、確実にいえるのは、原作を読んだほうが格段に楽しめるということだ。原作のファンでありつつ、そこまでこだわりがない人にはお勧め、しかし、コアな原作ファンには受け入れられない可能性がある作品だ。
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