見知らぬ妻へ 


 2008.4.19  物悲しい物語たち 【見知らぬ妻へ】  

                     

評価:3

■ヒトコト感想
せつなく悲しい物語。すべての物語に男と女が絡んでいる。恐らく読むときの精神状態によって、いろいろな感想をもつことだろう。年代的なものも大きいのかもしれない。本作に登場する人物たちとぴったりはまるわけではないが、物悲しさは十分に共感できる。悲しい雰囲気を感じながらも、どこか、かすかに希望を見出すこともできる。ただ、読んだときの精神状態が少し下降気味だったので、全ての物語に必要以上に涙を誘われてしまった。内容的にそれほど泣けるとは思わなくとも、心が弱っているときには泣けてしまう。そんな隠れた心理状態を表にださせるような効果がある作品なのかもしれない。

■ストーリー

宿・歌舞伎町で客引きとして生きる花田章は、日本に滞在させるため偽装結婚した中国人女性をふとしたことから愛し始めていた。しかし―。(表題作) 才能がありながらもクラシック音楽の世界を捨て、今ではクラブのピアノ弾きとして生きる元チェリストの男の孤独を描いた「スターダスト・レビュー」など、やさしくもせつない8つの涙の物語。

■感想
作者の作品では天国までの百マイルという作品がある。これは親子関係を扱っている作品で、それも精神状態の関係だと思うが、最後の場面では必要以上に涙がこみ上げてきた。恐らく正常な状態であってもかなり泣ける作品であることは確かだが、感動が増幅したというのはある。それに比べると多少短編ということで、物語の厚みはないのだが、それでも十分に泣ける作品であることには間違いがない。浅田次郎の作品に慣れていればという前提がつくのだが、泣けるのは間違いない。

登場人物たちが、どこか浮世離れした生活をしているというのもポイントなのかもしれない。これがあまりにリアルで等身大の人物を描いているとなると、逆にさめてしまうのだが、自分が知らない未知の世界の話となると、想像力豊かになり、架空の話といえども十分泣けてくる。この絶妙な距離感というのが、本作の素晴らしいところなのだろう。近すぎず、現実離れしすぎていない。自分の身近では起きないことだが、電車の隣に座った人にはおきているかもしれない現実。それがちょうど良いのだろう。

作者の得意な部分がいくつか見えてくる。競馬であったりヤクザ物であったり。作者の得意なフィールドというのは、キャラクターが生き生きしているようにも感じる。一般人が知りえない世界のことを感動秘話を含めながら、読者に伝えてくれる。これが作者の力であり、普通の感動秘話を描く小説家と違う部分なのだろう。

精神状態によって大きく感想が変わると思うが、とりあえず自分が読んだときには感動したのは確かだ。




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