天国までの百マイル 


2007.3.28 たどり着いた時の安心感 【天国までの百マイル】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
母親を助けるため百マイル先の病院へ向かう。典型的なお涙頂戴ものかと思っていたが、そうではなかった。母親を房総の病院へ転院させるまでの葛藤や道中での母親との交流など泣けそうな部分はあるが、そこにはそれほど力を入れているようには感じなかった。貧しい暮らしからどうにか子どもたちを育て上げてくれた母親に対する感謝の気持ち、そして一人っきりで搬送する安男。赤貧の安男が苦労しながら到着したカトリック病院での天才外科医。この医者が登場した瞬間。なんともいえない感動が押し寄せてきた。おそらくこの医者のキャラクターによるところが大きいのだろう。安心感でいっぱいになった。

■ストーリー

主人公の城所安男は、自分の会社をつぶしてしまい、いまや別れた妻子への仕送りもままならぬほど落ちぶれた中年男。ある日、心臓病で入院する母を見舞った安男は、主治医から病状の深刻さを告げられ愕然とする。そのまま治療を続けても母の余命はごくわずか。残された道はただひとつ、謎の天才外科医にバイパス手術を施してもらうこと。衰弱した母をワゴン車に乗せた安男は、房総のひなびた漁村にあるカトリック系病院目指して、100マイルの道のりをひた走る。はたしてその先に奇跡は待っているのか

■感想
不動産会社で栄華を極め、そこから一気に転落の人生を歩む安男。安男と兄弟の関係や離婚した奥さんの関係など転落した男の人生としては当たり前の境遇なのかもしれない。貧乏になって初めて気がつくこと、激しい人生の浮き沈みを経験している安男だからこそ心から出てくる言葉なのだろう。安男の母親に対する気持ち。正直自分の母親はまだこれほどの年ではないが、いずれ訪れる未来のことのように思えてしまった。兄弟たちの冷たさなど、やけに生々しく感じた。

兄弟の冷たい対応と対照的に描かれる別れた元妻の英子やマリ。血が繋がっていない者が心底相手のことを考えてくれるやさしさ。赤貧な暮らしを続ける安男の境遇と母親を搬送するガス代すらも捻出できない惨めさ。道中に苦労や困難が山積みであればあるほど、他人のちょっとした優しさは心に響く。おんぼろなワゴン車に載せて母親を運ぶ姿を想像すると、惨めさや辛さよりもハラハラドキドキ感のほうが強かった。

苦労して到着した病院で救世主のように登場する天才外科医。この医者の最初に発する言葉と、強烈な包容力。このキャラクターとぶっきらぼうではあるが
なんでもやり遂げてくれそうな安心感。正直、このやり取りを読んだ瞬間に心の奥底から熱いものがこみ上げてきた。この医者ならば、なんとかしてくれる。苦労して搬送したことがここで報われるという思いで、いつの間にかどっぷりと感情移入していた。

この後半から登場した天才外科医のキャラクター。これがなければただの平凡な作品になりさがっていただろう。



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