五郎治殿御始末 


2007.7.26 侍の後始末 【五郎治殿御始末】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
武士の時代から、近代化への変化の真っ只中。リストラされたサラリーマンのように、行き場をなくした侍たちがどのような御始末をつけるのか。本作は自分の存在意義を見出せない男たちが、最善の方法ですべての始末をつけている。本作の中には心に残るような物語もあれば、ちょっとした豆知識程度に思えるような物語もある。本作に登場する、どの侍たちも当然順風満帆ではない。しかし侍の心を捨てず、きっちりと後始末をつける。男の心意気を感じるが、頑固のようにも感じた。

■ストーリー

男の始末とは、そういうものでなければならぬ。決して逃げず、後戻りもせず、能う限りの最善の方法で、すべての始末をつけねばならぬ。幕末維新の激動期、自らの誇りをかけ、千年続いた武士の時代の幕を引いた、侍たちの物語。表題作ほか全六篇。

■感想
この時代をテーマにした作品として思い浮かべるのは、作者の壬生義士伝だ。同じような時代で、武士道を重んじる人物が主人公であるあたりは、似通っている。しかし、本作はあくまで武士の時代が終焉を向かえ、近代化に乗り遅れた侍たちの後始末を描いている。頑固なまでの武士道精神を、作品からヒシヒシと感じることができる。しかし、その雰囲気は、どこかリストラされたサラリーマンのようにも思えてくる。

侍の後始末といって思い浮かべるのは切腹だろう。しかし、本作の中では切腹することは簡単だが、後始末をするためには、切腹以上に辛いことがまっていた。武士道精神を感じさせる本作では、潔さが重要視されるかと思いきや、後始末をするため必死でしがみ付いている。なんだか矛盾を感じるが、
切迫した雰囲気は、物語から十分に伝わってくる。

ただ、最近歴史ものとして壮大な作品を読んでしまったために、どうしても本作がこじんまりと小さくまとまっているような気がした。悪くはないが、読み終わった後に心に残るということがない。短編を読み終わった瞬間は、後を引くものがあるが、少したつと、あっさりとその気持ちを忘れてしまう。

これは短編の宿命かもしれない。



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