小説家と夜の境界 [ 山白朝子 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
奇妙な小説家が主人公の短編集。小説家になるのは普通の人ではない。どこか一般人と違う異常な部分があるからこそ小説家になれるということだ。架空の人物とはいえ、本当にいそうだから恐ろしい。「墓場の小説家」は、まさに変人の小説家だ。
小説にリアル感をもたせるためにすべてを自分で経験しないと小説が書けない。まさにジョジョに登場してきた岸辺露伴の小説版だ。作品の中で骨が折れる描写が出た際には、実際に自分が車に轢かれて骨が折れる感覚をリアルに味わなければかけない。恋愛小説を書くために、嫁に出会い系サイトで浮気をさせるなど、かなり変人度がすさまじい。そもそも小説家というのは変人だ、という前提なのが面白い。
■ストーリー
私の職業は小説家である。ベストセラーとは無縁だが、一応、生活はできている。そして出版業界に長年関わっていると、様々な小説家に出会う。そして彼らは、奇人変人であることが多く、またトラブルに巻き込まれる者も多い。そして私は幸福な作家というものにも出会ったことがない──。
■感想
「精神感応小説家」が印象的だ。有名な小説家が事故で植物人間状態となった。実際には頭は正常ですべてを理解しているが、話すことができず手足や眼球さえ動かすことができない。そんな人物の物語「潜水服は蝶の夢を見る」なども読んだことがある。
非常につらい状況だ。自分の意志を外部に伝える手段がない。それを解決するのが精神に感応できる人物の登場だった。東南アジアから技術研修員としてやってきたN君がその能力を使い、植物人間となった作家の小説を完成させる。感動物語だ。
「小説の怪人」は現在の小説家の中で、同じようにしている人が本当にいるのでは?と思えてしまった。有名な大ヒット小説家はものすごいペースで作品を量産し続けていた。実は有名小説家の作品はすべて分業制で作られていた。
プロット担当や描写担当など。漫画家は分業制が当たり前になっている世の中で、小説も分業制があってもよいのかもしれない。本当に能力のある人達だけを集めて、それぞれが得意な部分を描き、最終的に一つの作品として完成させる。ありそうな展開だ。
「ある編集者の偏執的な恋」は小説家と密接に関わる編集者との関係が描かれている。どの程度の親密度なのかはわからないが、仮に編集者が小説家に恋をしたとしたらどうなるのか。ストーカーのような存在の編集者が小説家に迫る。
単純にストーカーの極端な物語として読んでいたのだが…。ラストで大きなどんでん返しがある。ストーカーは偽の編集者であり、本当の編集者が小説家を助けることに成功する。偏執的な編集者ではなく、ファンというパターンもあるのかもしれないが…。
どれも奇妙だが面白い短編だ。