書楼弔堂 霜夜/京極夏彦
評価:2.5
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■ヒトコト感想
このシリーズは、毎回歴史的な有名人が弔堂にやってきて、店主と会話を続ける中で変化していく短編集だ。今回も歴史的な有名人が弔堂にやってくるのだが…。自分的にはその歴史的有名人があまりにピンとこなかった。夏目漱石はわかる。読んでいる途中で、これが夏目漱石だと気づくことはなかった。最後に実は…。ということで判明したという感じだ。
他の人物はほぼ知らない。印刷を改良しただとか、活字だとか標準語を作って辞書を作り上げただとか。昔に比べると本はその製造工程から進化していき、今の状態になっている。確かに昔に比べるとはるかに進化し、一般人にいきわたりやすくなったのだろう。今の電子書籍の世界などは昔から比べると信じられない状況なのだろう。
■ストーリー
古今東西の書物が集う墓場。明治の終わり、消えゆくものたちの声が織りなす不滅の物語。花も盛りの明治40年――高遠彬の紹介で、ひとりの男が書舗「弔堂」を訪れていた。甲野昇。この名前に憶えがあるものはあるまい。故郷で居場所をなくし、なくしたまま逃げるように東京に出て、印刷造本改良会という会社で漫然と字を書いている。そんな青年である。出版をめぐる事情は、この数十年で劇的に変わった。鉄道の発展により車内で読書が可能になり、黙読の習慣が生まれた。黙読の定着は読書の愉悦を深くし、読書人口を増やすことに貢献することとなる。
本は商材となり、さらに読みやすくどんな文章にもなれる文字を必要とした。どのようにも活きられる文字――活字の誕生である。そんな活字の種字を作らんと生きる、取り立てて個性もない名もなき男の物語。夏目漱石、徳富蘇峰、金田一京助、牧野富太郎、そして過去シリーズの主人公も行きかうファン歓喜の最終巻。残念ですがご所望のご本をお売りすることは出来ません――。
■感想
古今東西の本が集まった巨大な本屋。書楼弔堂。その名前のとおり本を弔うという感じなのだろう。これまでのシリーズでは有名人が登場し自分の中でも、この有名人かというのが最後に判明し、その意外な経歴や弔堂とのやりとりを楽しく読むことができた。
さすがにシリーズの最終巻となると、登場してくる有名人はほとんどピンとこなかった。夏目漱石はわかる。ただ、弔堂とのやりとりで気づいたというわけではない。他の人物は名前が判明してもまったく知らない人物だった。
本作のメインは本の成り立ちと進化なのだろう。昔はどのようにして本を作っていたのか。そこから活版印刷となり、今に続いていく。仕組みとしては理解していたが、この進化は大きく、昔は本は非常に価値があり限られた人しか手に入れることができないものだった。
人の手で書き写して本を作り上げるなんてのはとんでもないことだ。どれだけ名作であろうと一般人にまで本が回ってくるのは、かなりあとになるのかもしれない。印刷技術の変化や進化がよくわかる短編集だ。
本が商材となり転売屋も発生してくる。活字の登場により、大規模な印刷が可能となり一般人に本がいきわたることになる。これによりかなり国民の知的レベルは上がったのだろう。紙の本の寿命の話が登場したり、今現在では電子書籍にまで進化し、その気になれば永遠にデータとして残ることになる。
本に対して深い知識をもっている人は楽しく読むことができるかもしれない。本の成り立ちを知ることは楽しいのだが、登場する人物たちをほとんど知らないというのが致命的かもしれない。
読む人を選ぶ作品だ。