沈みかけの船より、愛をこめて 幻夢コレクション [ 乙一 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
乙一の別名義での短編作品集。「メアリー・スーを殺して」と同じパターンだ。最も印象的なのは表題作でもある「沈みかけの船より、愛をこめて」だ。平和な家族四人の生活の中で、突如として両親の離婚が確定する。二人の子供は両親のどちらについていくのか。経済的な事情。引っ越し先の環境。もろもろを子供たちが調べて判断する。
非常にドライな子供だと感じた。冷静にものごとを見ていると言ってよいのかもしれないが…。父親についていったらどうなるのか。母親についていくと経済的には厳しくなるが、祖父たちと一緒に暮らし祖母が料理を作ってくれるので、健康的な生活ができるなど、そこまで考えるのか?というくらい熟考している。
■ストーリー
破綻しかけた家庭の中で、親を選択することを強いられる子どもたちの受難と驚くべき結末を描いた表題作ほか、「時間跳躍機構」を用いて時間軸移動をくり返す驚愕の物語「地球に磔(はりつけ)にされた男」など全11編、奇想と叙情、バラエティーにあふれた「ひとり」アンソロジー。
■感想
「二つの顔と表面」は、山田ユイの耳の後ろには人面層ができていた。その人面層がユイと会話できるようになり。クラスのアイドルのカバンの中で猫の死体が入れられていた。。。誰が猫の死体を入れたのか。
両親が新興宗教にはまっているので、ユイは疑われることになる。自分の無実を晴らすため、ユイは人面層と協力して真犯人を見つけ出そうとする。誰が猫を殺したのか。この陰惨な事件を実はユイの耳の後ろにできた人面層と調査しているというのが強烈だ。
ホラーやミステリーなどごちゃまぜとなっている。ただ、単純なゾンビものについてはイマイチな感じがした。ほっこりする短編が意外によかった。「五分間の永遠」は、お金を払い五分だけ友達としてふるまうというのはかなり強烈だ。
ヤンキーにパンを買ってこいと命令される部分などは、ヤンキーにいじめられるというパターンかと思いきや、逆にいじめられている側が積極的にパンを買ってくることに意義を見出しそこから、逆にパンを買ってくる命令を躊躇されるまでになる。
「蟹喰丸」もホラー化と思いきや、ほっこりとする物語となっている。癌に罹患し余命わずかとなった男が鬼と出会う。鬼の身体の強さを手に入れることで、癌の進行を抑えることができる代わりに、鬼に日本酒を届け続ける役割を担う。
鬼が日本酒好きで、他の鬼の家来たちは鬼の酒乱具合に辟易しているのが面白い。どこぞの企業の偉い人が酒乱であり、それに嫌々付き合わされる部下という図式があるのだろう。そこから鬼の在り方を男が諭すという流れが良い。
バラエティ豊かであることは間違いない。