メアリー・スーを殺して 幻夢コレクション (文庫) [ 乙一 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
乙一の別名義の作品を含めた短編集。ラブコメありホラーありと、乙一色の強い短編となっている。特に印象的なのは「トランシーバー」だ。東日本大震災で息子と嫁を亡くした男が、子供が遊んでいたおもちゃのトランシーバーで死んだはずの子供と会話できることに気づくのだが…。自殺をするのは時間の問題のような状態であった男が、酒に酩酊した時だけおもちゃのトランシーバーで子供と会話ができる。
ひょんなことから知り合った女性と再婚するのだが…。心が痛くなり、ほっこりし、最後にはホロリとくる短編だ。別名義の作品という体なので、作風が大きく変わっても違和感ないということなのだろう。バラエティに富んでいるので、短編のどれかには気持ちがひっかかるだろう。
■ストーリー
奇想ホラーの名手・乙一を筆頭に、感涙ラブコメの中田永一、異色ホラーの山白朝子、そして'10年以降沈黙を守っていた越前魔太郎、と鬼才4名が揃い踏み、幻夢の世界を展開する。そしてその4名を知る安達寛高氏が、それぞれの作品を解説。
■感想
表題作でもある「メアリー・スーを殺して」は共感できる人は多いのかもしれない。いけてない女子が小説のクオリティを上げるために、実体験を小説に書くことを考え、様々な改善をしていく。いつの間にかオタクな女子から、リア充の女子となっていた。
メアリー・スーというのが二次作品の中に登場する都合の良いキャラというのは知らなかった。キャラクターに自分の願望を投影しないために、自分を磨いていくというのは、なかなかないパターンだ。秀逸なのは、主人公の女子が自分の変化に気づいていないままリア充になっているという部分だ。
「エヴァ・マリー・クロス」は、まさに乙一といった感じのホラー物語だ。人間楽器というのがありえないのだが、奇妙な恐ろしさがある。昔からある、富豪や選ばれたセレブだけがひそかに秘密の会合で楽しんでいる悪趣味なもよおしもの。それが人間楽器の演奏会だ。
人間楽器というのを細かく説明はしないが、文字づらだけでイメージできるだろう。その材料とされた子供たち。秘密を暴こうとしたフリーライターは恐ろしい秘密に気づき、情報を提供してくれたはずの人物が消えていた…。
「ある印刷物の行方」も、乙一らしいホラー作品だ。焼却炉の担当者としての仕事は、毎回決まった大きさの箱が持ち込まれそれを焼くだけ。にもかかわらず待遇が良い仕事だった。前の担当者はすぐに辞めており、周辺には自殺者が多発していた。。
明らかにこの荷物の中身に秘密があるのは間違いない。ある程度、想像はできる流れではある。3Dプリンターでなんでも作れるのは一時話題となったが、それの極端な形が本作なのかもしれない。将来ありえない話ではないのが恐ろしい。
乙一らしい印象深い短編が多数つまった短編集だ。