青嵐の旅人(上) それぞれの動乱 [ 天童荒太 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
主人公は四国の松山のお遍路宿の子供であるヒスイと救吉だ。幕末の新選組の時代。そこでは自分の中で最近作品を読んだことのある「洪庵と泰然」で登場した緒方洪庵が救吉の医者としての才能に気づく。坂本竜馬や新選組の面々など、他作品でも登場した人物たちなので、違和感なく読み進めることができた。そこに本作独自のキャラである鷹林や他の侍たちが登場し、ヒスイや救吉たちと対応することになる。
尊王や攘夷と、それに向けて動き出す面々。藩同士の戦争をしないでくれと訴えるヒスイ。その気持ちが強くなり、ついには救吉と共に介護補助として軍に入ることになる。ヒスイが救吉の兄のふりをして戦いに参加し、様々な状況に対処していくことになるのだろう。
■ストーリー
文久2(1862)年。舞台は、260年間続いた江戸幕府がいま、まさに消えようとする頃の伊予松山藩(愛媛県)。代々続くおへんろ宿「さぎのや」で育てられた娘ヒスイと弟の救吉は、危機一髪の場面を救われたことをきっかけに、年少の藩士、青海辰之進と知り合う。医術で人を救うべく精進する救吉に、ある日郷足軽隊の調練に医師見習いとして同行せよと命が下る。誰よりも戦を厭い、平和を願うヒスイは、やがて救吉が真の戦に送られることは必定とみて、男装して弟に同道することを決意する。
■感想
幕末の時代を舞台としたお遍路宿の子供を描いた物語。幕末の新選組や坂本竜馬、そして緒方洪庵まで登場してくる。原田左之助や沖田総司なども登場し幕末の歴史ものとしての面白さを下支えするキャラクターたちは十分そろっている。
そこからヒスイと救吉が、看護人という立場で幕末の歴史的な人物たちと関わっていく。上巻ではキャラクター紹介の様相が強い。特にヒスイたちと関わる侍たちについて細かく描かれている。それぞれの強い思想を元に動き出す。特に鷹林は沖田総司と互角に渡り合うほどの強者という描かれ方をしている。
坂本龍馬が序盤に登場し、ヒスイたちと交流することになる。ここで坂本竜馬の圧倒的な強さやカリスマ性が描かれている。そして、ヒスイと救吉は竜馬に魅了されていく。ここから藩の方針に従うことになり、長州藩との戦争が近づいていく。
戦争を避けたいヒスイ。そして救吉を戦地に送ることに大反対するヒスイ。その結果として、もともと男に間違われていたヒスイが、男のふりをして戦地で兵士たちを看護する藩医のような存在となる。鷹林の存在が不気味であることはかわりない。
鷹林たちは藩医やそのほかの医者を襲撃したりもする。このあたり、鷹林の目的がいまだにはっきりしないため、キャラクターとしてカギとなるのは間違いないだろう。鷹林は早い段階から坂本竜馬に目をつけられており、寺田屋での襲撃では原田左之助をもう少しのところで殺害に成功しそうになる。
殺害に失敗すると、次は沖田総司をターゲットとして対決を挑む。ヒスイが男に化けていることに早い段階から気づいていたりと、鷹林に抜け目がないことは間違いない。
下巻に向けて鷹林の存在が気になるところだ。