青嵐の旅人 (下) うつろう朝敵 [ 天童荒太 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
上巻では、坂本龍馬や新選組が登場し、そんな中で、ヒスイと救吉のふたりはどこまでも看護人として戦地に赴いている。薩長と幕府の対決が描かれており、幕府側でもある伊予松山藩も長州と戦争することになる。銃での戦争の中で、看護人がどれだけ銃で撃たれた者を助けることができるのか。銃を使っての戦争ではあるが、50人対50人という小規模の部隊同士の対決となる。
坂本龍馬が死んだ後であっても、ヒスイたちは戦争が早く終わることを願う。戦争の物語というと、勝つか負けるかに焦点があてられるのだが…。藩同士の戦争に巻き込まれ、ほんろうされる農民たち目線というのはあまりない。本作では戦争に負けそうな側が腹いせに周辺の農家に火を放つなどの行為を非難したりと、より農民目線の描かれ方をしている。
■ストーリー
藩士・大原観山の命で新選組の原田左之助を訪ねたヒスイと救吉は、旅の途上で、かつて山中で命を救った坂本龍馬と再会。その後、沖田総司ら新選組の隊士たち、長州の桂小五郎、高杉晋作ら新しい世を作らんと志す傑物たちと出会う。いっぽう、武士としての信念と現実の狭間で揺れる辰之進には、その心を試すように常に暗い“影”がつきまとう。情け容赦ない戦、愛する人の死、そして迎えた、故郷伊予松山最大の窮地……。激動の時代を愚直に生きる三人が見た希望の光とは!?
■感想
上巻では、ヒスイと救吉が藩の中では異質の看護人として活動をスタートする部分が描かれている。藩と長州の対決はリアルないち兵士目線での戦いが描かれている。銃弾が飛び交う中で、ひとりの兵士が銃弾を受けるのか、助かるのかという瀬戸際には強烈なインパクトがある。
侍たちの剣での対決から、集団での銃での対決への変化。それについていけない者は死んでいく。すべての兵士が勇猛果敢に突っ込むようなタイプではなく、慎重に自分の命を大事にしながら戦いへ挑む兵士たちも、それなりに存在するということなのだろう。
藩同士の戦争に巻き込まれるのは、戦地に住む農民たちだ。いつの世も、一般人が被害を受けるのは同じ。長州に攻めるために、大島に入りこむ松山藩。ここでは長州の兵士たちを追い払うが、地元民たちは残っていた。ここで救吉とヒスイは自分の藩の兵士だけでなく、農民たちの治療も行う。
誰か傷ついた人がいれば、分け隔てなく治療を行う。そんな心意気の救吉とヒスイなだけに、高杉晋作や坂本龍馬に気に入られるのだろう。本作がすべて真実だとは思わないが、幕末の有名人たちの行動は心打たれるものがある。
幕末の小説などを読むと、新選組や坂本龍馬はかっこよく描かれている。特に新選組は戦いに明け暮れてはいるが、それは正義のためという思いが強く描かれている。幕末での藩同士の戦争の中で、なんでもない市民や看護人に焦点を当てる作品というのも珍しい。
剣での戦いから銃での戦いに移り変わる中で、鷹林のように他人を陥れることを何より快感に思う者もいる。武士の気持ちを忘れずにいるが、ヒスイたちの気持ちをくみ取りながら、戦争を回避するすべを最後まで探す者もいる。
藩の戦争はひとつのパターンではないと思い知らされる流れだ。