中にいる、おまえの中にいる。 [ 歌野晶午 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
「真宵の母」で登場した間宵己代子がまたしても登場してくる。前作では圧倒的な恐怖感があった。己代子の執念というか残虐さには強烈なインパクトがあった。今回も間宵の母である己代子が登場するのだが…。己代子がアオの中に入り込み、アオを制御し恐怖の連鎖を続けるのかと思いきや…。どこかコメディ色が強くなっている。
己代子はアオの中に入り込んだといっても、体は制御できず頭の中でアオに話かけるだけ。アオの言葉を己代子に伝えるためには、アオは声を出して伝えるしかない。他人からするとアオが見えない誰かと会話しているように見える状態だ。アオのピンチを己代子が助ける。己代子から出て行ってもらいたいアオがとった行動とは…。ラストはちゃんとオチがあるのが良い。
■ストーリー
前作で孫娘の思考を含め身体を乗っ取った間宵己代子が、今度は寄生先を、自分に復讐しようとしていた十八歳の青年・栢原蒼空に乗り換え「生きることこそわが宿業」と、なおも生き続けようとする。著者最恐のホラー・ミステリー。
■感想
前作の「真宵の母」から続く物語だ。己代子は新たにアオの身体に入り込むことに成功した。あの恐怖の己代子がアオの身体を乗っ取って、恐怖の復讐を続けるのかと思いきや…。前作の恐怖感を期待すると、結構な肩透かしを食らうかもしれない。
アオの身体に入り込んだ己代子は妙にコメディに走っている。アオの未熟な行動をいちいち諫める己代子。それに対して反論するアオ。他人から見ると、アオは見えない誰かと言い合いをしている異常な人物に見えてくるのは間違いない。
少年と己代子の掛け合いが本作のメインなのだろう。謎の家で少女との絡みや、その虐待されている少女の親が登場したり。かと思えば、己代子のアドバイスで非常に危険なクレジットカード詐欺を行おうとしたり。
己代子とアオは一心同体のはずなのに、ずいぶんと己代子はアオに対して危ないことをさせている。少女の父親から攻撃された際には、己代子は瞬間的にアオの思考を奪い取り、己代子がアオの代わりに話をしてアオを助けたりもする。通常時はまるで漫才の掛け合いのようだが、ピンチになると己代子がでてくる感じだ。
徐々にアオは己代子に体の制御も含めて奪われようとしている。そんな中で、アオの取った手段というのは強烈だ。己代子を別の人物に移動させようとする。そのターゲットとなったのは少女の父親だった。アオの死を覚悟した行動の結果は…。
見事に少女の父親に己代子を移動させたかと思いきや…。最後にしっかりとしたオチがある。結局のところ、己代子の恐怖というのはほぼない。残虐性や激しい恨みもないといって良いのだろう。
前作に比べると大きな変化だ。