間宵の母 


 2020.6.6      非現実的な恐怖感 【間宵の母】

                     
間宵の母 [ 歌野晶午 ]
評価:3.5
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■ヒトコト感想
強烈な恐怖感のある作品だ。作者の今までの作風から、最後にどんでん返しがあるのでは?と思いながら読んだ。間宵紗江子の母である女の強烈な異常さがおそろしい。紗江子を中心に紗江子の母と関係のある者たちのエピソードが語られる。序盤では紗江子の父と親友である詩穂の母親が駆け落ちし、怒りくるった紗江子の母が異常な行動をとる。

紗江子がイジメられ、詩穂は家族崩壊し、最後には詩穂の息子がすべての不幸の元凶として紗江子の母親を殺害しようとする。後半は特に恐ろしい。詩穂の息子が実力行使したとしても、それを上回る得体の知れない紗江子の母の恐ろしさがある。ラストの展開は非現実的でありホラー映画の様相が強くなっている。

■ストーリー
小学三年生の詩穂と紗江子は親友同士だったが、紗江子の母の再婚相手である若い義父と詩穂の母が失踪した。その日から紗江子の母の精神状態は普通ではなくなる。詩穂も父親から暴力を受けるようになり、児童養護施設に入れられてしまう。その後、二人は悪夢のような人生を送ることになるのだが、実は驚くべき真実が隠されていた。著者最恐のホラー・ミステリー。

■感想
紗江子の母は夫を娘の同級生の母親に奪われてしまう。その怒りを向けるのは、夫を奪った女の夫である詩穂の父親だった。紗江子の母は詩穂の家族を追い詰めていく。この追い詰めるプロセスが強烈だ。詩穂の家に押し掛け詩穂の父親に対して暴言を吐く。そればかりか、手配書のようなポスターを作り詩穂の母親を淫乱女として近所へふれまわる。

ここまでされると、最終的に詩穂の家族は崩壊してしまう。そこから間宵紗江子の母の異常さはエスカレートしていく。複数のエピソードが語られ、それが連作のように別の短編へとつながっていく。

紗江子が大学生になると、母親の異常性は増していく。小出しにされる母親の影。紗江子の同級生がその異常さに気づくのだが…。ここでも紗江子の母の魔の手がまっている。中盤までは何が起きているのかわからない。

紗江子が就職したとしても、母親の影が消えることはない。紗江子の同僚が不自然さを感じて紗江子の母親を調べようとするのだが…。紗江子の母親は死んでいた。そればかりか紗江子には娘がいた。紗江子の母の孫にあたるこの存在が奇妙な恐ろしさをつむぎだしている。

後半は残酷な場面が目白押しだ。紗江子は同僚と家族ぐるみの付き合いをするのだが、同僚の娘が不幸な事故にあう。家の中でかくれんぼをしていた時に発生した事故。家の中にある大きなオーブン。そこから焦げ臭いにおいがしてくる。恐ろしすぎる状況だ。

ラストのエピソードでは、詩穂の息子はすべての不幸の元凶が紗江子の母にあると知り、復讐を誓う。ここで詩穂の息子がすべてを清算してくれるのかと思いきや…。やはり間宵の母の力は強かった。

非現実的なラストではあるが、とんでもない恐怖感がある。



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